社会心理学では、成果に対する金銭的なインセンティブは個人の業績に悪影響を及ぼすというのがコンセンサスだ。状況によっては、業績を減退させることもあり得る。にもかかわらず、業績給の仕組みはあらゆるところで活用されている。

業績に対する金銭的インセンティブをより賢く活用するには、いかなる点に気をつければよいのか。業績給の悪影響を回避し、効果をより高める施策について、シンガポール経営大学のニラマルヤ・クマー教授と、英ロンドン・ビジネススクールのマダン・ピルトラ教授が5つの提言を示す。

業績給の悪影響をもっと知ろう(写真=PIXTA)
業績給の悪影響をもっと知ろう(写真=PIXTA)

 アルフィー・コーン氏は、1993年に発表した米経営誌「ハーバード・ビジネス・レビュー」の論文の中で、次のように論じている。

 「確かに、大多数の米国企業では、従業員のモチベーションを高めるため、報酬額を業績やその他の指標と連動させた何らかのプログラムを採用している。しかし、もっと注目すべきは、『何らかのインセンティブが約束されれば人はより良い仕事をする』という考え方について、ほとんど吟味されていないことである。この仮定とそれに関わる慣行は広く浸透しているが、これに異を唱える意見を支持するエビデンスも増えてきている(1)」

 心理学の一連の研究を引用し、アルフィー・コーン氏は「外発的動機づけ(行為それ自体ではなく、報酬など行為がもたらす結果による動機づけ)を高めることに依存したインセンティブは、残念ながら内発的動機づけ(達成感や楽しさなど、行為それ自体から生じる動機づけ)を低下させることにつながり、失敗する運命にある」と推論した。さらに「職場におけるばらまき(賄賂)は、そう簡単にうまくいくわけではない」と結論づけ、論文を締めくくった。

 アルフィー・コーン氏の視点は、長年にわたり他の専門家によっても繰り返し示されており、最近ではダニエル・ピンク氏の主張が記憶に新しい。2500万回以上の視聴回数を誇るピンク氏のTEDトーク「The Puzzle of Motivation(邦訳版TEDタイトル「やる気に関する驚きの科学」)」は、TEDトークで最も人気のある10本のうちの1本である。

 ピンク氏は、過去20年間にわたる心理学者による実験に基づき、最も単純なタスクに適用する場合を除き、彼が「If, then reward(交換条件付き報酬)」と呼ぶ金銭的インセンティブでは、業績を向上させることはできないと結論づけている。

 こうした見解は、社会心理学研究における現在のコンセンサスを反映している。ジェフリー・フェファー氏によれば、「文字どおり、何百もの研究とインセンティブ研究に関する数多くの体系的なレビューは、一貫して外発的報酬に効果がないことを報告している」という(1)。

この記事は会員登録で続きをご覧いただけます

残り9320文字 / 全文10782文字

【春割/2カ月無料】お申し込みで

人気コラム、特集記事…すべて読み放題

ウェビナー・音声コンテンツを視聴可能

バックナンバー11年分が読み放題

この記事はシリーズ「マネジメント・アンド・ビジネス・レビュー」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。