性急な「刈り取り」に、株式市場はむしろネガティブ(写真=PIXTA)
性急な「刈り取り」に、株式市場はむしろネガティブ(写真=PIXTA)

企業にとって長期的な価値創出のために投資することと、短期的に利益を確保することのバランスをいかにとるかは常に重要な問題だ。短期的な視点で競争するだけでは、長期的な競争力を失う。一方、長期的な視点での投資に終始すれば、資金が尽きる。

戦略の国際的な権威であるビジャイ・ゴビンダラジャン教授らが株式市場の反応を分析した結果、企業は、たとえ目先の利益を減らすことになっても、もっと徹底的に長期的に活動する行動特性を身につけるべきだと明らかにした。

目先の利益か、将来の種まきか。マネジャーのジレンマに対してこの研究は、企業が戦略をシフトした時の株式市場の反応からひもとき、具体的に5つの指針に言及。実務に対するヒントを与えてくれる。

つかみとる頃合いを知りなさい。
手じまいの時を知りなさい。
立ち去る時を知り、
走り出す時を知りなさい。
――“The Gambler(熱い賭け)”より (ドン・シュリッツ、ソングライター)

 既存の自社の能力で利益を獲得し続けるか、将来の利益のため現在の利益を減らす恐れのある新しい能力に投資するか――。企業は極めて重要なこのジレンマに日々、直面している。例えば米ペプシコは、加糖製品で稼ぎ続けることと、消費者ニーズの変化に応じた健康飲料とお菓子にシフトすることのバランスを取らなければならない。米フォード・モーターは、既存の内燃機関車ブランドから稼ぎを絞り取り続けるか、電気自動車、ライドシェア、自動運転車といった新興市場に向けて生まれ変わるのかを選択せねばならない。

 企業が短期・長期の目標双方を達成するための、変化に対応する「ダイナミック・ケイパビリティ」を構築することは、「安くて簡単」からはほど遠い。企業は、希少な資源を種まきと刈り取りの間で最適に配分するため日々奮闘している。だが大抵は、両者の間で揺れ動くだけに終始してしまう。

投資家は何に注目しているか

 マネジャーが、活動の重点を種まきと刈り取りの2つの間で行き来すべきだとしたら、それはどのタイミングなのか。私たちはこの問題を、投資家が企業の重点項目の変更にどう反応するのかについて観察することで検証した。

 投資家は、この移行を企業の販売費及び一般管理費(販管費)から読み取る。販管費には戦略、ブランド、特許、イノベーション、顧客関係、市場情報、組織的な技術、人的資本のように将来の利益を向上させるための投資と、製品・サービスのサポート、販売手数料、配送費、広告などといった現在の業務を支援するための投資が含まれる。これらの支出は米国経済で1兆ドルを超えており、短期、長期両方の価値を創造し得る。