企業に正しい行いを強制する第2の主体は政府である。例えば、世界各国の政府が炭素排出量を規制したり、炭素に価格を設定したりすれば、すべての企業にとって気候変動を解決することが経済的利益に変わる。
政府が、労働規制を強化し、労働者に生活費以下の賃金しか支払わない行為を違法化し、教育や健康に多額を投資し、従業員組織を積極的に支援し、富裕層に積極的に課税すれば、不平等は解消されるだろう。企業が政治に資金提供することが違法となり、独占禁止法の規制が日常的に実施されれば、最大かつ最も強力な企業が自分たちに有利なゲームのルールを形成する能力は大幅に低下するだろう。
本当に、実現可能だろうか
企業は本当に制度の再構築に対して貢献できるのだろうか? 企業人たちはすでに、炭素規制を支持し、「政治とカネ」に対する反対活動に一致団結し始めている。例えば、「We Are Still In(我々は引き続きパリ協定に加盟する)」においては、2000社以上の企業が、非政府組織(NGO)、宗教団体、地方自治体とともに、汚染物質削減目標を求めてロビー活動を展開している。また、米国の都市では、地元企業が、市民社会や自治体と協力して地域社会の健康増進に取り組んでいる。
現在の環境下では、経済界が包摂的な社会制度の全面的な再構築を求める状況を想像するのは難しいかもしれない。しかし、それは過去にも起こったことだ。英国での1642年から49年にかけての内戦や、88年から89年にかけての名誉革命では、中産階級と上流階級が民主的な改革を進めるために活動した。
最近の例としてドイツでは、企業が現在の制度の発展において重要な役割を果たした。企業は、労働者と協力して徒弟制度を構築したが、これはドイツの小さな格差と高い生産性を決定する要因の1つとして指摘される。南米では、企業が、社会の民主化に積極的な役割を果たし、アパルトヘイト解体も英国の商業上の問題から促進されたという研究結果がある。
また同じことの繰り返しだろうか? 民主主義を再建するために民間企業は中心的な役割を果たせるだろうか? また、企業は本当にそうすべきだろうか? ここに書いてあることは絵空事だと思われるかもしれない。しかし、自分に問いかけてみていただきたい。
もし、企業が沈黙し続け、利益最大化だけに集中したら、何が起こるだろうか? 新型コロナウイルスの大流行は我々の社会と制度を見直す大きな機会を与えてくれた。我々は、今こそ資本主義を再構築する機会をつかむ必要がある。
米ハーバード大学教授

(翻訳=岩尾俊兵、慶応義塾大学商学部准教授)

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