農業分野では、最先端企業が、持続可能な農法が旧来の農法よりも収益性が高いことを実証している。例えば、英ユニリーバが自社のブランド茶を100%持続可能なものにすると宣言し、持続可能な農法による利益が大幅に高くなると実証すると、他の茶メーカーもそれに続いて業界全体が持続可能な農業を志向した。こうしたイノベーションは、消費者の意識にも強く影響し、よりサステナブルな製品への需要が高まることもある。

多くの漁場は数年で回復できる

 第2に、企業は他社との協調的な行動によっても変化を促すことができる。企業が収益を上げると同時に社会問題や環境問題に取り組む機会は数多く存在するが、この中には、企業が他社と協調して行動しなければ生かせない機会も多くある。世界の漁業保護はその典型的な例だ。すべての企業が漁獲量を減らせば、すべての企業が利益を得ることができるが、単独で利益を得ることはできないのだ。

 こうした産業は、自主規制によってその利益を増大させ、同時に大きな社会的利益を生み出すこともできる。多くの漁場は、数年の回復期間を与えられれば、ほぼ完全に再生する。短期的な自主規制に合意できる漁業従事者は、そうでない漁業従事者よりも長期的には有利になる。実際、現在の世界の漁業の約半分は何らかの自主規制によって管理されている。

 カカオ、パーム油、牛肉、木材、大豆の分野でも、持続可能性と許容できない労働慣行という2つの問題に取り組むための合意が生まれ、繊維やIT(情報技術)産業、鉱業や鉱物の分野でも同様の合意が進んでいる。

 こうした自主規制の取り決めが非常に成功しているケースもある。例えば国際商業会議所(International Chamber of Commerce、ICC)は世界の貿易を規制する自主的組織であり、彼らの取り決めによって、ブラジルのアマゾンでは長年にわたって森林破壊が大幅に減少している。

 しかし、こうした努力は往々にして不安定なものだ。裏切りに対する実質的なペナルティーがないため、企業はしばしば約束を破り、通常どおりのビジネスに戻そうとする誘惑に駆られるのである。

世界の金融資産の大半を、約12社が管理

 企業間の協力を強制し、本質的にすべての企業に正しいことをさせ、誰も競争上不利にならないようにできる主体は誰(あるいは何)であろうか? 第一は投資家である。世界の金融資産の非常に大きな部分が、12社ほどの企業によって管理されている。これらの企業は、巨大さゆえに、気候変動のような破滅的なリスクを分散することはできない。

 世界の富裕層の中にも同様のリスクにさらされている人々がいる。例えば、日本政府の年金基金は1兆3000億ドル以上の価値があり、世界の株式市場のおよそ1%を所有している。20年初頭、年金積立金管理運用独立行政法人の最高投資責任者を務めていた水野弘道氏は、社会的包摂や気候変動などの問題は、長期的な収益に深刻なリスクをもたらすため、その解決が受託者責任の中心であると考えるようになったという。

 ESG(環境、社会、企業統治)指標の出現は、投資家が企業に対して環境・社会問題への取り組みを要求し、そのパフォーマンスを追跡する手段を提供する。投資家が、投資先企業に社会・環境リスクに取り組むよう働きかけるケースも増加している。

 例えば、40兆ドルの資産を持つ450以上の投資家が、世界の主要企業100社に対して、炭素排出量の削減と脱炭素経済への移行に関する具体的な目標を設定するよう働きかける団体「クライメート・アクション100プラス」を結成している。

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