理論を起業に生かすには?(写真=PIXTA)
理論を起業に生かすには?(写真=PIXTA)

不確実な世界において、経営者や起業家が逆張りの発想や信念に基づいて、根本的に新しい価値を創造するにはどうすればよいのか。そうした問いに答えるために必要なのが、本稿が注目する「企業独自の理論構築」である。

筆者らは過去10年にわたって、スタートアップ企業や既存組織のリーダーが独自の理論構築をする手助けとなるアプローチを開発してきた。その集大成が、本稿で提案されている「バリューラボ」という思考ツールだ。筆者らの一人による実証実験の結果、価値理論の構築方法を教えられたグループは、著しく業績を上げることが明らかになっている。

 理論は、科学における根本的なブレークスルーの原動力となるものだ。科学者にとって、新しい方法で世界を見て、新しい観察で、新しいものを発見するのに役立つ。我々は、経営者や起業家にとっても理論は同様に強力なツールになりうると信じている。

 価値創造における最大のブレークスルーは、独自の価値理論の開発と実行に根差している。理論とは、曖昧で非実用的だと思われることもしばしばあるが、私たちは、クルト・レヴィン氏の「優れた理論ほど実用的なものはない」という言葉に心から賛同する(注1)。理論があれば、戦略家は不確実な世界を理解し、より明確に予測し、より良い意思決定をし、根本的に新しい価値を創造することができる。 

 私たちは過去10年にわたって、スタートアップ企業や既存組織のリーダーが独自の理論構築をする手助けとなるアプローチを開発した(注2)。私たちのメソッドは、企業に対して「こういう理論にすべきだ」と指示するものではない。むしろ、組織が独自の理論を構築するための足場を提供するもので、私たちはこのツールを「バリューラボ」と呼んでいる。この仮想空間のラボでは、経営者や起業家が科学的かつ実証的な方法で戦略を立案し、検証することが可能だ。

 理論を構築する方法を説明する前に、理論とは何か、何をするものかをもう少し正確に理解する必要がある。

バリューラボを支える科学

 成功した企業を取り上げて、すべての違いを生んだのは理論だと回顧するのは簡単である。しかし、まず理論から始めるということが、実際により多く価値を生み出すという科学的な証拠はあるのだろうか? 理論から出発した人は、そうでない人よりも優れた業績を上げることができるのだろうか?

 どちらの場合も、答えは「イエス」であることを示す証拠が増えつつある。本論文の著者の一人は、最近発表された研究に携わっている。その研究は、約1000社のスタートアップ企業を無作為に2つのグループに分けて実施した。

 処置グループ(施策を施すグループ)には、ここで紹介したようなツールを使って価値理論を構築することから始めるよう指導した。また、市場分析、実験、顧客検証などの標準的なビジネスツールも教えた。もう一方の対照グループには、標準的な起業のためのツールだけを教えた。そして、両グループを8カ月間モニターし、その成果を評価した。

 その結果は明快で説得力があるものであった。実験と行動の開始前に価値理論を構築することを教えられた人たちは、著しく優れた業績を上げたのだった。つまり、実験結果を正しく解釈し、自信を持って前進する道を切り開くことができた。また、より早く、より自信を持って、欠陥のある理論を認識し、撤退する可能性も高い。実際、理論から始めた企業は、より優れた戦略的成果を生み出していることをあらゆる証拠が示している。
詳しくはこちらを参照(注7)。

理論があれば、見えない価値への道筋が見えてくる

 科学者にとって理論はレンズであり、他の人には見えない観察結果や証拠を明らかにするものである(注3)。アインシュタインは次のように言う。「あるものを観察できるかどうかは、使う理論に依存する。何が観察できるかを決めるのは理論なのである」(注4)。

 理論によって、科学者は世界を違った角度から見ることができるようになる。ガリレオは地球が太陽の周りを回っていることを発見し、ニュートンは光が無色から強い色に変化することを発見し、アインシュタインは他者がブラックホールや中性子星、重力波の証拠を最終的に発見するための突破口を開いた。いずれも理論があったからに他ならない。

 科学者と同じように、起業家や経営者も、理論を用いて新しい視点で世界を見ることができる(注5)。理論は、他の方法では見ることのできない価値への道筋を照らし出す。理論という懐中電灯を手にした経営者や起業家は、「街灯効果」、つまり既に光が当たっているところ、既に明らかになっているところだけを探そうとする人間の傾向を避けることができる。

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