ポッドキャストで人気を集める「歴史を面白く学ぶコテンラジオ」の深井龍之介さん。「会社の歴史」に向き合う機会が多いファミリービジネスのアトツギには、深井さんのファンがたくさんいます。激動する世の中と家業の現実の間で葛藤するアトツギに向けて、歴史をひもとく価値について語っていただきました。

深井龍之介氏
深井龍之介氏
島根県出雲市出身。九州大学文学部卒業後、大手半導体メーカーに入社。その後リーボに取締役、ウェルモにCSO(チーフストラテジーオフィサー)として参加。2016年に歴史をドメインとしたCOTENを設立。「歴史を面白く学ぶコテンラジオ」がポッドキャストで人気を集めるほか、著書『世界史を俯瞰して、思い込みから自分を解放する 歴史思考』もヒット

山野千枝(以下、山野):深井さんは歴史を学び相対評価することで、自分の現在地を確認でき、行動に生かせると説いています。どうしたらそれが実践できるでしょうか。

深井龍之介氏(以下、深井氏):やはり、勉強することではないでしょうか。勉強といっても受験生のように毎日何時間も机に向かう必要はなく、まずは勉強し始めることが大切であり、同時に生涯学習的に継続することが大切だと思います。それは座学でなくても、他のアトツギに話を聞くのでもよいと思います。インプットすることが大切です。私は「自分の経験で何とかしない」がすごく重要だと思っています。

山野:前回、早稲田大学の入山章栄教授と話したときも、同じことをおっしゃっていました。「とにかく知の探索の旅に出よう」が、入山教授のお考えです。

深井氏:本当にそういう時代だと思います。アトツギに限らず、知の探索が社会的に価値を持つ時代に突入し、それに取り組む人とそうでない人に大きく分かれてきています。勉強は何歳からでも始められますから、勉強のために時間とお金をきちんと使うべきです。

山野:歴史上の人物はアトツギにとって一種のケーススタディーになるからなのか、関心を持つアトツギが多いと実感しています。「好きな歴史上の人物」について語る時には、「自分もこうなりたい」「自分と似ているところがある」など、自分の姿を投影して考える人が多いと思います。

深井氏:歴史に対しては知識を身につけるというよりも、学ぼうとするモードに突入することに価値があると思います。学ぶことは、外の世界に狩りへ出かけるようなもので、学ぶモードに突入しているからこそ、ひらめきや突破口につながります。受け身の姿勢で待っていても何も起こりません。外の世界から学ぶことを「ムダだ」とする感覚の人もいるようですが、こうした人ほど勉強したことがない人だと思います。

フリードリヒ大王の苦悩とアトツギ

山野:多くのアトツギは家業を引き継ぐ難しさに直面します。「引き継ぐ」難しさは、歴史に名を残す人たちにもあったのでしょうか。

深井氏:例えば、プロイセンを統一したフリードリヒ大王は跡継ぎとしての苦悩が深い人物でした。啓蒙(けいもう)主義に傾倒し理性に基づいた国家経営を画策していましたが、軍人王と呼ばれた先代の王である父が整備した強大な常備軍を引き継ぎます。そして、理性を重視する、多様な人を受け入れるなどの啓蒙主義に基づいた文化は残しながら、生き残り策としての富国強兵によってヨーロッパの強国にのし上がりました。その意味で、フリードリヒは改革者でありアップデートする人だと思います。2代目、3代目はとかく軽視されがちですが、歴史を勉強する限りにおいて、やはりそこにはアトツギならではの大変さがあると思います。

山野:「本当はゲームの開発をしたかったが、金属加工の会社を継がなければならない。だから好きなことはあきらめる」といったアトツギがいますが、こうした人はフリードリヒのエピソードを知れば、「自分らしさは家業でも生かせる」と思えるのではないでしょうか。特に今のような不確実な時代に生きていくアトツギは、「真面目に頑張っていれば大丈夫」が通用しません。フリードリヒがプロイセンに自分の強みを生かしたように、アトツギは一見家業に関係なさそうな自分の強みを家業でも生かすべきです。

深井氏:「自分はゲーム開発が好き」と「アトツギに生まれた」をマージできるのは、アトツギである自分だけです。マージするところまでいくにはきちんと考えたり苦しんだりする場面があり、2つをどう統合するかはにわかには出てこないと思いますが、抽象的なレベルにまでいったらマージできるはずです。

山野:抽象化と具現化を繰り返して「反復横跳び」しているうちに、いい頃合いのポイントが見つかるのかもしれないですね。

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