(前回「「『老化』と『病気』、『介護』と『治療』の区別から始めよう」から読む)

NPO法人となりのかいご代表 川内 潤さん(以下、川内):COPD (慢性閉塞性肺疾患)を患っていて、それでも「俺はたばこ吸わなかったら死んだほうがマシなんだ」と言う方がいたんです。「だけど呼吸が苦しいですよね?」「苦しいに決まっているだろう」「やめないんですか」「やめるわけねえだろう。風呂上がりの一服が最高なんだ」と。でも火事になっちゃいますから、寝たばこだけはやめましょうね、とお願いしたんです。そういうことがもっと許されたらいいのになと思いました。

えっ、ダメダメじゃないですか。

川内:健康上はダメダメですが、その姿は実にその人らしいんですよ。

そういうものかなあ……。

医療法人社団悠翔会理事長・診療部長 佐々木 淳さん(以下、佐々木):いや、何でそこで不摂生したらいかんのか、僕には分からないんですよ。

医療法人社団悠翔会理事長・診療部長 佐々木 淳さん(写真:大槻 純一、以下同)
医療法人社団悠翔会理事長・診療部長 佐々木 淳さん(写真:大槻 純一、以下同)

 例えば編集Yさんが今、重度の糖尿病で、「もう私、血糖値なんてどうでもいいんです」と言ったら、僕はたぶん時間をかけて説得して、ちゃんと生活を改めたほうが、きっとあなたは幸せになれる可能性が高いですよ、と訴えます。自己決定は尊重されるべきだと思うんですけど、でも、自己決定するためにはここから先、それをしたらどうなるのかという情報が必要だと思うんですよね。

 在宅医療の対象のご高齢の方だと、変な言い方ですが、まあ、何をやってもそんなに変わらないんですよ。COPDの人はたばこやっても、やらなくても残されている時間はそんなに変わらないですよ。火事が起これば分からないですけど。

 肝硬変だからお酒を控えた人と、肝硬変でお酒を控えなかった人と、予後は違うのかというと、たぶん在宅医療が必要なレベルにまでなっていると、もう変わらないんですよ。なので、僕は「どちらでもいいですよ」と。

えっ。それ言っちゃうんですか。

延命ではなく、快適に過ごすための治療

佐々木:「まずはあなた自身が、どういう人生を生きたいのかということを理解して、それを周囲にちゃんと伝えましょう。それが決まれば、その生活をより安全により長く楽しめるように我々は考えます」と言います。「お酒を飲むという前提だったらその前提で治療も考えます」と。「ただ、治療はあなたの命を延ばすためではなくて、あなたが快適に暮らすための治療だから、もしかしたら薬は減っていくかもしれないし、新しく薬も始まるかもしれないけど、命を延ばすためにやるわけじゃないですよ」

それは困る、と言われたら……どうするんですか?。

佐々木:ああ、それは簡単です。命を延ばしたいんだったら、酒はやめるよね、と。

な、なるほど(笑)。

佐々木:申し上げたように、正直なところやめてもやめなくてもそれほどの差はないんです。だから、ここで話しているのは「優先順位」ですよね。

川内:はい。

佐々木:人生の最後の納得感というのは、100点満点の模範解答の人生を生きたかどうか、ということではなくて、どれだけやんちゃができたかというところに、たぶんある。「俺は俺らしさをちょっと貫いちゃったよ」という、軽いかもしれないけれど、その人のちょっとした誇りなんですよね。「最期の最期まで医者に言われた通り、言うことを聞いて、まじめにやりました」ということに誇りを感じる人もいらっしゃると思うし、それはそれでいいと思います。

その意味でたばこもアリなのか。

佐々木:川内さんがその方に感心されたのは、多くの人はやっぱりやりたいことを我慢して暮らしているからだと思います。

 でも、介護が始まる人たち、特に在宅医療に入る人たちは、山をかなり下りてきたわけです。それならやっぱり、ここから先の人生の下山計画をわくわく楽しく立てたらいいと思うんですよね。

次ページ 「最後に温泉、行っちゃいますか?」