(前回「家族が『間違えている』とき、介護のプロはお節介すべき?」から読む)

佐々木先生の講演を初めて伺ったときに、とても印象的だったのがこのグラフです。日本人の8割が陥る「疾病モデル」。

小食・低カロリーによる筋肉の衰えで転倒・骨折・肺炎を起こして入院。入院でさらに筋力を失ってがっくり衰えてしまうのが日本人の大半の人生の終盤。「年をとったら高カロリー、高タンパクの食生活に切り替えて、最後まで元気に」というのが、佐々木先生の主張だ。
小食・低カロリーによる筋肉の衰えで転倒・骨折・肺炎を起こして入院。入院でさらに筋力を失ってがっくり衰えてしまうのが日本人の大半の人生の終盤。「年をとったら高カロリー、高タンパクの食生活に切り替えて、最後まで元気に」というのが、佐々木先生の主張だ。
[画像のクリックで拡大表示]

医療法人社団悠翔会理事長・診療部長 佐々木 淳さん(以下、佐々木):入院のきっかけになる転倒・骨折、肺炎(誤嚥性肺炎)は、低栄養による筋肉の衰えの影響で起こることが多い。そして入院すると筋肉はさらに衰えてしまいます。なので「不摂生は高齢者の特権」と言って、ハンバーガーや宅配ピザをお薦めしているわけです。

下降する線をなだらかにする

NPO法人となりのかいご代表 川内潤さん(以下、川内):編集Yさんも言っていたけれど、聞いているだけで元気が出ますね(笑)。

たくさん食べて体力を維持できていれば、下降する線がなだらかになって、静かに着陸できる、ということですよね。介護は撤退戦、というのが『親不孝介護』でもご紹介している基本的な考え方ですが、医療という目で見てもそうなんですね。

撤退戦を援軍ナシで戦おうとすると

川内:人の老化は止められません。だから介護は「基本は撤退戦」です。仕事なら、以前よりも収益が伸びる、貢献が報われる、そういう期待があるから現場はモチベーションを維持できるわけですが、介護では、むしろ「諦めねばならないこと」が多々起こります。「成長」を目指す仕事のメソッドとは違う方法論が必要です。

(中略)

 じりじりと悪化する状況を前提に置いたとき、最も必要なのは、その戦線を受け持つ人が「最後の瞬間まで戦い抜く」体力、精神力を維持することです。そのためには、どうすべきか。普通に考えれば「1人で何もかもやろうとせず、組織や社会の力を借りる。人に相談して悩みを分かってもらい、支援を受ける」と、なりますよね。

はい。厳しい戦況で援軍がない状態は、物理的にも精神的にも厳しいでしょう。

川内:仕事のできるビジネスパーソンが、これを理解できないはずがない。ですが、これまで見てきた通り、子どもは親の状況に冷静に対応できず、なんでも「自分でやってあげる」ことに執着しがちなんです。

「介護は身内の問題だから、他人の世話になりたくない」と、「親は最後の安全基地」ですね(本書80ページ、連載ではこちら 第2回「家族が介護を「間違えている」、プロはお節介すべき?」)。

川内:それにしたって、「まさか」ですよね。ロジカルで優秀な人なら、そこは合理的に割り切れそうだけど、と。

 でも、誰もが知る大手企業の幹部でバリバリ仕事をしている人が、冷静さを失って、自ら介護福祉士などの資格を取ろうと勉強し始めたのを、僕は何人も見ています。

 自分で介護を抱え込めば、当然、仕事に時間を使えなくなり、結果が出なくなります。そこで冷静さを取り戻すか、といえば逆で「中途半端だから親の状況がよくならないんだ」と、仕事のほうを辞めてしまって「介護離職」に至り、ますます無理を重ねて親の世話をして、ついに倒れてしまう。

 介護している人が先に倒れてしまえば、親も倒れてしまいます。「介護の共倒れ」は、実際にたくさん起こっている悲劇です。

(『親不孝介護』第8章 「なぜ『デキる社員』ほど介護離職に突き進むのか?」より)

佐々木:川内さんが携わる介護も、僕の専門の在宅医療も、基本的には“軟着陸”を目指さなきゃいけないですよね。どんなに頑張ったってそのときは来るし、そのときが来るまでにいくつもの障害が起こります。

医療法人社団悠翔会理事長・診療部長 佐々木 淳さん(写真:大槻 純一、以下同)
医療法人社団悠翔会理事長・診療部長 佐々木 淳さん(写真:大槻 純一、以下同)

誰もが避けられない日、それまでの間、本人も家族も、できるだけ低いダメージで過ごしたい。そのために、佐々木先生は「年をとったら食べなさい、カロリー、タンパク質を取りましょう」と、川内さんは「親不孝介護」という言い方で、親と上手に距離を取ることを訴えている、という。

佐々木:僕はよく山から下りる、「下山みたいなものです」という説明をするんですよね。必ず、山は下らなければいけないんだけど、下山道にもいろいろなルートがある。だから、介護も在宅医療も「どの道をたどるか」ということであって、その選択基準の一つが「どれがおばあちゃんにとって一番楽しい道なのか」なんです。

なるほど。

佐々木:多くの人は、上り坂は経験しているんですけれど下り坂というのはたいてい未体験です。上り坂というのは道を選びやすい。目標が明確なんですよね。

川内:「頂上はあそこだ」と見えるからですね。

佐々木:合理的な最短距離はこれだ、と分かれば、障害を乗り越えて登るだけです。そもそも上り坂って前に坂しかないから、とても分かりやすいですよね。ところが、下り坂って。

そうか。ばーっとこう景色が広がっていく。

次ページ おばあちゃんの下山を見守る