(前回から読む

 今回からのゲストは、在宅医療の専門家である佐々木淳先生。

 著書『在宅医療のエキスパートが教える 年をとったら食べなさい』(飛鳥新社)は、世の中の「年寄りの食事の常識」をことごとくひっくり返すものです。「血圧や血糖を気にするより、とにかく食べなさい!」(本書パート2タイトル)と断じ、高齢者にお薦めのメニューとして「1・ハンバーガー」「2・牛丼」「3・宅配ピザ」「4・フライドチキン」「5・餃子」を挙げる、という具合。

 佐々木先生は「高齢者にとって、健康のためにいちばん大切なのは『体重を減らさないこと』」だと主張します。「小食・衰弱」こそが高齢者の健康リスクだ、と。なぜか。在宅高齢者が救急車で運ばれて緊急入院する理由の第1位は「肺炎」、第2位は「骨折」。食事量の不足や低栄養(カロリー、タンパク質が足りない)が、喉や脚の筋肉不足につながり、誤嚥(ごえん)性肺炎(気道に食べ物が入ってしまうことが原因)や転倒が起きやすくなる、というのです。

 生活習慣病の予防のための食事量や糖質の制限などは「若年・中高年世代向けの健康習慣」としては正しい。けれど、高齢者になったら、高齢者向けの健康習慣に「ギアチェンジ」せよ、というのが佐々木先生の主張なのです。「衰えが気になり始めた高齢者は、動脈硬化よりも痩せてしまうことを心配すべきだ」というわけです。

 「不摂生は高齢者の特権」とまで、佐々木先生は言い切っています。
 ある意味、こんなに元気が出る本も珍しい(笑)。

 中高年までの健康の常識と、老いを受け止める時期に入ってからの常識は正反対、という佐々木先生の主張と、「親孝行」も親が元気な頃と介護が必要になってからでは正反対、という川内潤さんの『親不孝介護』の主張には、つながるものがあるように感じました。もちろん、在宅医療の専門家である佐々木先生は、介護の専門家である川内さんと、同じ“お客さん”(高齢者とその家族)に接しているので、問題意識もつながっているはず。お二人をかみ合わせたら、高齢者の医療・介護について、世間の常識を揺さぶるお話が聞けるのではと考えて、対談をセッティングしました。頭を柔らかくしてお楽しみください(担当編集Y)

年をとったらハンバーガーを食べよう!

NPO法人となりのかいご代表 川内 潤さん(以下、川内):ご多忙のところ、ありがとうございます。

医療法人社団悠翔会理事長・診療部長 佐々木 淳さん(以下、佐々木):いえいえ、よろしくお願いいたします。

 進行の編集Yです。よろしくお願いいたします。佐々木先生の『年をとったら食べなさい』、衝撃でした。今まで自分が信じていた常識とは正反対のことばかりです。おじいちゃんになったらハンバーガー食べていいよ、カップラーメンも卵を落とせば悪くないよ、って、こんな痛快な本はないと思いましたが、読んだ方から「そんなわけないだろう」みたいなことを言われたりしないんですか。

医療法人社団悠翔会理事長・診療部長 佐々木 淳さん(写真:大槻 純一、以下同)
医療法人社団悠翔会理事長・診療部長 佐々木 淳さん(写真:大槻 純一、以下同)

佐々木:いや、医者からいっぱいクレームが来るかなと思ったけど来ませんね(笑)。

川内:そうですか(笑)。

佐々木:だってこれ、Evidence-Based(エビデンスベースド)で書いている本ですからね。「文句があるならエビデンスで示してください」と言おうかなと思っていたんですけど、今のところお医者さんからクレームはなくて。

 ないんですか。

佐々木:ただ、「若い糖尿病の人は慎重に」と書いているのに、そういう人が異常に反応していて(笑)。あなたの場合はまだ高齢者じゃないでしょう、ちょっと早いです、と。

 でも「年をとったら何食べてもいいんだぜ」と思ったら、下り坂の人生と思っていたけれど、それだけでもかなり楽しく生きられそうですよね。

佐々木:ありがとうございます。『親不孝介護』も、すごくいいなと思いました。特に、説明の仕方がビジネス本のメソッドを使っているので、ビジネスパーソンが読んで理解しやすいと思うんですよ。

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