(前回から読む)
川内さんが、ブリヂストンさんをはじめとする企業で実施している介護の個別相談について伺っています。前回の「ロールプレイ」のお話も衝撃的でしたが、あれを体験してもらったうえで、時間は何分ぐらい取っているんですか。
NPO法人となりのかいご代表・川内潤さん(以下、川内):個別相談は1人50分です。
けっこう長いですね、それぐらいは必要ということでしょうか。

川内:必要ですね。最初のほう(介護休暇が誤解生む? ブリヂストンの担当者と語る「親不孝介護」)でもちょっとお話ししましたけれど、残念ながら今の日本の介護保険の制度や介護制度全般において、ご家族が専門職に50分間、要介護者を抜いた形で相談できる仕組みってないんですよ、どこにも。
地域包括支援センター(包括)やケアマネジャー(ケアマネ)さんは、そういうことはしないんですか。
川内:包括がとことん丁寧に家族に対応するのは、現実的には難しいと思います。ケアマネさんと会うときも、残念ながら親御さんを伴って支援を受けることがほとんどです。
利用者の側からケアマネさんに「サシで私の相談に乗ってください」とお願いすることは……ちょっと思いつかないかな。
お母さんの悪口を思う存分言えるチャンス
川内:そうなんです。家族支援もケアマネの業務に入るのですが、やはりなかなか時間がないし、相談する側もその発想がない。ところが企業での個別相談って、介護者である子どもが1人で専門家と話せるんです。だから50分間、とにかくお母さんの悪口を言えるわけですよ。
出てくるのは悪口なんですか(笑)。
川内:「母があんな人と思わなかった」「私のことをボケたふりをしていじめてきます」とか、本当におっしゃるわけですよ。ああ、そういうお気持ちなんですねと、前半はひたすら聞いていって、後半、それでは具体的に何をこれからしていきましょうかということを話します。「50分はあっという間だ」とおっしゃる方が多いですね。
ブリヂストン 人財育成部 上席主幹 増谷真紀さん(以下、増谷):そうですね。この個別相談という制度を本当に社員の皆さん、評価してくださっていて。川内さんだからこそだと思うんですけれども、「こういうことをやってくれるブリヂストンって、本当にいい会社だな」と言う方もいらっしゃるんですよ。
おお、素晴らしい。
川内:これ、言っていいいんですかね。「いや、うちがこんなにいい会社だとは思わなかった」って言う方もいます(笑)。というぐらいすごく喜んでもらえるというのは私は嬉しいですけど、こんな、私みたいな面倒くさいのを雇ってくださっているのも……。
面倒くさい……まあ、そうかもしれませんね(笑)。
川内:ははは(笑)。本当に社員さんのためにと思ってくださっているからこそなんだ、と思います。そういうメッセージングができるツールとして使ってもらえているのはすごくありがたい。
「社員の介護がうまくいくようにコミットする会社」は、働く側もロイヤルティーが高くなりそう。
増谷:ちょっと教科書的になるかもしれないですけど、「介護はあなただけの問題ではないので、ブリヂストンという会社としてちゃんと支援、応援しますよ」というメッセージを送るのは、人材の定着を含めて、経営的にもいろいろなメリットがあると思うんです。
川内さんも普段からおっしゃっていますけど、「介護と仕事を両立してください」と、それだけぼんと言われたら、パフォーマンスが落ちるのが当然だと思うんですね。精神的にもつらいし、時間の制約も増えますから。そういった中で川内さんは「何もかも自分でやるのではなく、こうやって公的支援を活用すれば、業務に対しての影響を少なくできますよ」とアドバイスをいただけるので、そういう意味で実利的にメリットがある。
そして、私も含めて仕事をしている人間は、どうしても問題にフォーカスしすぎてしまって、「問題解決しなきゃ」みたいな気持ちに縛られてしまうんですね。自分自身がその状況に入り込んで、解決しようとする。仕事するうえではそれが生きがいだったりすると思うんですけれども、「そういうやり方じゃないほうがうまくいく場合もあるんだよ」ということに気付くことができる、という意味でも、ビジネスパーソンが介護を考えるのはすごく意味があると思います。
ああ、ついつい現場にいるのが楽しくて、「よし、俺が出ていく」みたいになりがちなんだけど、それだけが解決策じゃないよねという。
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