親に届かない子の思い、でもそれには理由がある

川内:それは、「僕にも親孝行させてくれよ」です。

 ああ、言いそう。

川内:それに対して私がどう答えているかというと、「いや、本当に親孝行したいと思うんだったら、私をすぐに広島に帰してくれ」って。想定上は実家は広島なんですけどね。もう親と子は、使っているロジックが違うんですよ。

 かみ合わない。

川内:かみ合ってないんですよね、それを感じてほしいんですよ。かみ合わないのはどうしてかといえば、「親のため」と思ってやっているのは誰ですか、という話なんですよね。本当に親のためってどういうことなんだ、と、考えたことはありますか、という問いなんですよ、このロールプレイって。だから「あなたが苦労することが、親のためになる、とは限らないですよね」と気付いていただく。

 うっかりすると「俺は苦労しているんだから、親はそれを評価すべきだよね」みたいな感じに。

増谷:自分のことをありがたがってほしい(笑)。

 そうそう、ありがたがってほしい。

川内:でもありがた迷惑なんですよね。「いや、お前は親孝行をはき違えているよ」とお母さんは言っているんだけど、でも「自分は親孝行をしている」という思い込みのほうが強くて、そこに気付けなくなっていく。ここに介護の大変さ、難しさがあるなと。

 「どんなに苦労して親と同居していても、どんなにおむつ交換が上手になっても、どんなに認知症のことを勉強しても、親のためにならないんですよ」ということを、非常に優秀なビジネスパーソンがなぜ気付けないのだろうということが、ずっと自分の中のテーマではあったんですよね。

(次回に続きます。以下は、編集Yが「実家に親を引き取ろうかな」と思ったときの、川内さんとの会話です)

「衝動的に親を引き取ってはいけません!」

※以下は書籍に収録している、編集Yが川内さんとの会話を振り返った部分です。

 「Yさんのような遠距離での介護の場合、介護者側が心配になって、衝動的に地元から自宅の近くに親を移してしまうパターンが、本当によくあるんですよ」

 どきっとしました。

 「あ、やっぱり。私も実は、そのほうがいいのかもとちょっと考え始めていました」

 「ですよね。必ずお考えになると思います。が、私が見る限り、『とにかく自分の近くに』と、よく考えずに連れてきてしまった場合、双方の幸せにつながらないことが多いんです」

 「え、そうなんですか?」

 「落ち着いてじっくり考えるべきです。Yさんには東京のご家族との日常があり、お母さんにはお母さんの新潟市での日常がある。それが続くことのほうが、近くで暮らすよりも幸せなことが多い。Yさん、もしかして『親の近くで介護ができない自分は、親不孝者だ』と思っちゃったりしていませんか」

 「うっ……そうですね。ありますね。もっと正直に言えば、他人から親不孝と思われるんだろうな、と考えていましたね」

 「Yさん、そうなんです。遠距離の親御さんがいる場合、子どもはどうしても自分で自分を責めがちになります。ですが、そばに居ないことが親不孝、なんてことは絶対にない。Yさんの介護を手伝ってくれるわけでも、お金を出してくれるわけでもない、無責任な第三者がどう思うかなんて、自分と家族とお母さんの人生には何の関係もないんですよ。冷静に、双方の幸せだけを考えることが大事です。忘れないでくださいね」

 心中を見透かしたようなアドバイスの数々が利いて、やっと気持ちがすこし落ち着きました。

 しかし現実は容赦なく、細かい揺さぶりをかけてきます。(後略)

(第3章「母さん。『介護保険証』はどこですかー?」より)

介護は“親不孝”なほうがうまくいく!?
『親不孝介護 距離を取るからうまくいく』
『親不孝介護 距離を取るからうまくいく』

「長男だから、親を引き取るか実家に帰らないと」→必要なし!
「家族全員で、親を支えてあげないと」→必要なし!
「親のリハビリ、本人のために頑張らせないと」→必要なし!
「親が施設に入ったら、せめて、まめに顔を見せに行かないと」→必要なし!

「親と距離を取るほうが、介護はうまくいく」
一見、親不孝と思われそうなスタンスが、 介護する側の会社員や家族を、そしてなにより介護される親をラクにしていく。

要介護チェックリスト・介護を抱えた部下との想定問答集付き

電通、ブリヂストン、コマツなど大手企業の介護相談で活躍中の川内潤さん(NPO法人となりのかいご代表)のアドバイスを受けて、遠距離の「親不孝介護」に挑んだ編集Yの5年間の実録。

親の介護が始まる前に、これを知っておくのと知らないのとでは、働き方にも介護のクオリティにも大きな差が付きます。 公的支援を受けるべきかどうかのチェックシート、 部下の介護離職を止めるための想定問答集も掲載!

親不孝介護 距離を取るからうまくいく

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