「へえ」という驚きはあったと。

増谷:もちろんです。それこそ私も、「本当に両親が具合が悪くなったら介護休職、使わないといけないのかな、九州に帰らないといけないのかな」と、ぼんやり思っていましたから。それがこの部署に来て、川内さんのお話を聞いて、「なーんだ」という。

川内:いや、そう言っていただいてうれしいですね。

増谷:実は自分で勝手に思っているわけですよね、親の介護は自分でやらなきゃいけない、とか。

 誰も「お前がやれ」とは言ってないんですよね。介護保険料、40歳越えたらみんな払っているわけですし。

増谷:誰からも、会社を休んで親を介護しろ、とは言われてないのに、休まなきゃいけないと思っていた自分に気付いて、それが両親にとってもいいことなんだと理解できたのは、すごくよかったですね。

川内:ありがとうございます。

増谷:なので、自分の経験からしても、セミナーを1回受けただけでマインドがぐるっと変わるかというと、なかなか難しいなと思っていまして。セミナーではもちろん川内さんからポイントをお伝えいただいているんですけれども、個別相談で川内さんと1対1でお話しすると、「ああ!」って、絶対なると思うんですよ。

川内:うれしいです、ありがとうございます。

増谷:介護は、なかなか「これは自分の話だ」とは受け止めにくいかもしれないですしね。そこは今、セミナーでも工夫しています。ロールプレイをやったりして。

「あなたは子どもとして、母親を止めてください」

 ロールプレイ。

川内:ロールプレイはうち(NPO法人となりのかいご)で最近つくったものなんですけど、田舎の母親を自分の近くに無理やり呼び寄せてみましたと。だけど1週間後に母親が「とにかく地元に帰りたい」と言い出したと。この状況下で「この母親を説得して止めてください」というのが課題です。

 誰が母親役をやるんですか。

川内:私です。社員の方にお子さん役をやっていただいて。

 その心は。

川内:私、仕事を通して「子どもに無理やり地元から連れてこられた親」というケースをたくさん見ていますので、ああ、きっとお子さんはこうおっしゃるだろうなというのが全部分かるわけです。

 分かるんだ。ということは、お母さんがどう反撃するかも知っている。

川内:はい、それを使って、息子役の方の気持ちをことごとく否定するわけですね。「いやいや、あなたがいてほしいというのは分かるけど、それは私の望んでいることじゃないんだよ」と、わんわん言うわけですよ。そうすると、たった5分なんですけど、そこには苦しみだけが残るわけですよ。

 いやいや、笑いたいけれど笑えない。

増谷:子ども役は、ちょっと川内さんのことを嫌いになりますよね(笑)。

川内:そうそう、私のことはたぶん嫌いになるんですよ。私は別にいいんですけれど、それはつまり、「呼び寄せた親が、だんだん憎たらしく感じられていく」ことを意味しているわけですよ。

 なるほど。

川内:でもたった5分なんですよ。これが1週間、1カ月、半年と続いていったら、お互いの関係が良くなるわけがないじゃないですか。その疑似体験をしていただいて、「これって本当に親孝行ですか」という問いを出して、介護相談に来てもらう。

 うっひゃー。

増谷:介護の「考え方」を理解するための、素晴らしいコンテンツです。

川内:「そろそろ自分も、介護のことを考えるべきなんだろうな」となったときに、だけど具体的に何をするのか、それをやったときにどうなるのか、って、最初に編集Yさんがおっしゃってくださいましたけど、普通は「考えたくない」わけですよね。

 そうなんですよ。

川内:でも考えたくないのであれば、考えさせればいいわけですよね。それで……。

 その状況に放り込むんですね。

川内:放り込まれてみるとぞっとする、と、皆さん言います。今の考え方のままでは「だめだこりゃ」だと分かる。これが分かっているのと、分かってないのとでは次の選択肢が変わってくる。

 ちなみに、子ども役の側から「これは効くだろう」と出してくる言葉ってどんなことですかね。

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