川内:露骨な言い方をすると、包括、といいますか行政にとっては「状況が悪化するだけ悪化してから支援を求められるより、問題がない時点から相談してくれるほうがずっとマシ」なんです。早めに問題点に対して手を打つことで、放置した場合に発生する、大きなコストがかかる事態を抑えられる可能性が出てくるから。

 あっ、そういうことか。

川内:そうなんですよ。利用者にとっても行政にとってもコスパの高い介護支援ができるかどうかは、「どれだけ早く外部サポートを入れられるか」次第なんです。たとえば、ご家族が親の認知症の進行に気付かず、「家がゴミ屋敷になっています」という状況で初めて包括に連絡してきたら、対応する職員もしんどいし時間もかかります。即座に片付けるのは無理、そのままにもできない、しょうがないから半ば強制的に「措置入所」ですね、と、老人ホームの空き室を行政の費用で借りることになる。そこで生活習慣病が見つかって、と、どんどん大ごとになっていく。放置するほどリスクが掛け算で増えていく感じです。

 事件が小さなうちに早めに対応すれば交番マターだった事案が、いつのまにか自衛隊出動、みたいな大事件になっちゃうのか。

川内:そう、認知症でも初期から手が打てれば、包括がやっている自立支援のサポートを使えるので、親御さんの健康な時間をできるだけ延ばしつつ、ご本人に合ったサービスや施設を紹介できていたはずなんです。その機会を失ってしまうと、本人のクオリティー・オブ・ライフ(QOL)も下がるし、ご家族の負担も増す。そして行政にも負荷がかかる。

 であれば、やっぱり包括に早く相談したほうが行政にとっても、保険財政にとってもいいし、利用者さんやそのご家族にとってもプラスになるんです。そこがまだ理解されていないんだなということが、我々の調査でも見えますね。

(『親不孝介護』第1章「考えるのは、今日じゃなくってもいいんじゃない?」より)

川内:素晴らしい。地域の介護の専門家に早いうちからつながることの重要さは、本の中でも耳タコの勢いで言いましたが、本当に大事なんです。

 介護は子どもも初めての経験ですけれど、親自身も、自分が衰えたときにどうしたらいいかというのが分からないんですよね。その分からない親を見たときに、子どもも一緒にぐらぐらくるわけです。

増谷:そうですよね、お互いに分からないから。

ぐらついている親との付き合い方は、誰も教えてくれない

川内:一緒に「どうしよう、どうしよう」と揺れていく。親という存在は、もちろん様々なケースがありますけれど、現役世代にとってはやはり大事な存在であることが多くて、子どもの側のメンタルにそれなりに影響が出てしまうんです。そして、ぐらつきだした親との上手な付き合いの仕方というのは、たぶん誰も教えてくれてないと思うんです。

 だから専門家の「包括」に早期にアドバイスを求め、自分は親と適切な距離を取る『親不孝介護』でいこう、と。

川内:私はもうずっと介護の世界にいて、実家も介護の会社ですから、普通の会社員の方の意識とはずれてしまっているんです。一般の方が、人生で初めて福祉の窓をたたくのが親の介護だったとしたら、これまでの“常識”、「親のそばにいるのが親孝行」というのがその典型ですが、そこから離れるだけでも相当厳しいだろうな、とは思いました。

 「介護のプロだからこそ、自分の親の介護はできない」と川内さんに言われてびっくりしました。

増谷:そうですよね、プロだから技術はある。でも、自分の親相手だと必ず失敗するからやらないんだと。

 増谷さんは、去年の7月にこちらの役職に就かれて初めて、介護の世界と向き合った感じなんでしょうか。

増谷:はい。一応、セミナーは受けていましたけれども、実は恥ずかしながら私自身「親の介護は、まだもうちょい先かな」と。

 川内さんのセミナーを受けてはいらっしゃった。

増谷:なので、お話は聞いていたんですけれど、その当時は親はとても元気だったので、あまりピンときていなかったんです。ある程度の年齢になってきたことで介護が自分事になって、意識がすごく変わってきました。

 川内さんの『親不孝介護』の、親と距離を取ろう、というお話、最初に聞いて驚きませんでしたか? 「近くに居ないほうがいい、自分で介護の実務はやらないほうがいい」と言われて、ショックを受ける方もいるんじゃないかと。

増谷:ショックというか、驚きはありました。「へえ、それでいいんだ」ぐらいな感じでしたね(笑)。あ、ラッキーって。

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