川内:これからは「始まる前が一番お買い得、学び得」 ということを、もっと訴えていけるといいですよね。一般社員の方向けにも「親が元気なうちに手を付けるのが成功の秘訣なんです」ということをばーんと打ち出してやっていると、「あ、元気なうちに相談に行っていいんだ」と気付いてくださって、参加されている方もいるわけです。いくらお元気でも、親の介護にまったく不安がない人なんていないわけですよ。

増谷:いないですよね。

川内:はい。そして、親御さんが元気なうちのほうが、有効な『親不孝介護』の手をたくさん打てるんです、そうするともう本当に心配なくというか、憂いなくお仕事ができる。

 私の体験したパターンもそれですね。本にも書きましたが、5年間の東京と新潟の遠隔介護の間、仕事を辞めることはまったく頭に浮かばずに済みました。

ダイバーシティーに必要なのは、選択肢である

増谷:川内さんのお話を聞いていていつも思うのは、私は今、介護を含めたダイバーシティー(多様性)関連の仕事をしているんですけど、ダイバーシティーへの対応って結局、選択肢というか、可能性というか、それを増やすことだよなと思うんです。

 なるほど。打ち手の多さ。人によって事情が千差万別だからですね。

増谷:はい。そういう意味で、介護はもう、なるべく早い段階で専門家に相談することで選択肢がたくさん手に入るんだよ、後半になればなるほど少なくなってくるから、早いうちにね、ということをお伝えしています。

川内:その通りです。分かりやすい。

 『親不孝介護』の中でも、「介護で一番大事なのは、お金じゃなくて時間ですよ」と川内さんが言っています。目の前で親が明らかに要介護の状態になっていたら、「どこでもいいから、明日入れる施設はないのか」となってしまう。いい施設を選ぶなんて選択肢は消えちゃうんですよね。

増谷:そうなんですよ。

川内:介護は誰もが当事者になりやすい、ダイバーシティーのテーマのうちの1つだと思いますので、その理解につなげるためにも、企業の方が親の介護という状況をうまく使ってもらえたらいいんじゃないかな、と思うんですよ。それを目指してくださっているのは、本当にありがたいなといつも思っています。

 増谷さんご自身は、すみません、立ち入ったことですが、ご両親の介護は?

増谷:実はまだやっていないんです。私の両親は九州で暮らしていて、ちょこちょこ病気はしていますが、2人とも健在です。

 おいくつぐらいですか。

増谷:80代前半ですね。

 じゃあ、施設に入ったうちの母とほぼ同じですね。

増谷:そうなんですね。実はこの間、母と電話で話していたら、不安なことがあるというので、とにかくまずは「地域包括支援センター」に連絡だ、と。

 おお、素晴らしい(笑)。

増谷:川内さんから教わった通りに、「住所+包括」で検索して。

川内:自分がやっている介護相談の経験も含めて考えると、包括の存在が世の中に本当に知られていないし、まして活用の仕方は分からない人がほとんどでしょう。ちなみにYさんは市役所のページから探してましたが、私のお勧めは、いきなり
「親が住んでいる住所(何丁目、まで入れる) スペースを空けて 地域包括支援センター」
で、ネットで検索することですね。これで一発です。

「こんなことで支援してもらっていいのか?」

 私は、包括という言葉と機能まで知っていたのに「家族のことなのに、公の支援を仰いで本当にいいのかな」と悩んだんですよね。

川内:それはYさんに限らず、おそらく日本人の大半が持っている感覚だと思います。おそらく多くの日本人は、今のYさんのお話のように、「自分で面倒を見られる間は、自分でやるべきじゃないか」と思っているわけです。つまり「支援とは、自分だけではどうにもならない状況になってから、初めてお願いするものだ」という感じ。

 それだ。私が感じていたのはそんな気持ちでした。

川内:「親はまだ自分で生活できている」と思えるうちは、相談しづらいんですよ。Yさんは東京と新潟で遠距離ですが、もし親の家と近いエリアに住んでいれば、買い物は手伝えるし、何なら時々一緒に寝泊まりすることもできますよね。それで大きな問題はない、って判断したら、わざわざ相談には行かない。「この状態でも包括に相談に行っていいんだ」という認識が生まれない。

 そうかも。

(中略)

支援を早めに利用するほど、公も私もメリットが大きい

 とはいってもですよ、実際に問題がないうちに、公的機関に相談してもいいのか、という論点はあるんじゃないでしょうか。

川内:いや、相談する側はもちろんですが包括の側も、早く相談してくれるほうがむしろありがたい。そのほうがお互いにコストパフォーマンスが高いんです。

 え、どうして。相談すれば包括にはコストが発生しますよね。

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