(前回から読む

写真右:ブリヂストン 人財育成部 上席主幹 増谷真紀さん、左:NPO法人となりのかいご代表 川内潤さん
写真右:ブリヂストン 人財育成部 上席主幹 増谷真紀さん、左:NPO法人となりのかいご代表 川内潤さん

そもそも介護の話なんて聞きたくないですよね

 ブリヂストンさんが、社員の皆さんにどのように「介護」についての、これは啓発、とでも言うんでしょうか、認識、意識を高めていこうとされているのかをうかがいたいと思います。

NPO法人となりのかいご代表・川内潤さん(以下、川内):前回は「企業が介護休暇・休職制度を設けることが、社員に『自分が仕事を休んで介護をすべき』という、間違ったメッセージを送っている可能性がある」という、増谷さんの指摘がありました。介護の初期、できれば始める前から「介護は外部のスタッフをマネジメントして行い、自分は距離を保つ」という考え方、『親不孝介護』を持っていただきたいところです。その一方で親の介護は、誰でも「できれば考えることすら避けたい」ことなので、セミナーなどに来ていただくのもなかなか難しいのでは、と思います。

 はい、そしてそこはこの本の売り上げにとってもすごく大事なところなんですけれど。

川内:Yさん、ホンネが漏れすぎ(笑)。でも、「介護が始まる前に」読んでもらえるかどうかが、すごく重要ですからね。

『親不孝介護 距離を取るからうまくいく』。怖くないし、中身はもちろん、とにかく読みやすさには自信がある介護本です。(編集Y)
『親不孝介護 距離を取るからうまくいく』。怖くないし、中身はもちろん、とにかく読みやすさには自信がある介護本です。(編集Y)

 そうなんです。でも親の介護って、そのときがはっきり来るまで考えたくない、というか、考えた瞬間から心配が始まってしまうから、介護の本なんて「できるだけ目に入れたくないもの」だと思うんですね。書店に行けば、介護本のコーナーがあるのは知っている。だけど、まだ介護に直面していないうちから、そこに足を止める人って、いないと思うんですよ。

ブリヂストン 人財育成部 上席主幹 増谷真紀さん(以下、増谷):確かにそうですよね。見ない振りをしたくなると思います。

 そこをどうやれば乗り越えられるのか。この本も、安藤なつさんに表紙に出ていただいたり、ちょっとロゴを斜めにしてみたり、できるだけふまじめそうな、「そんな、深刻な本じゃないから、うっかり手に取ってよ」という演出をしているんですが。

増谷:うっかり(笑)。

川内:そうですね(笑)。

 もちろん、中身はがっつり役に立つと自信があるからできることですけれど(笑)。ただ、そうはいっても「介護」とタイトルに付けている以上、なかなか難しいだろうな、とは正直思うんですね。ブリヂストンさんでは、川内さんの介護セミナーはどういう形で告知・募集されるんでしょう?

「部下の話かと思ったら、自分の問題だった!」

増谷:社内のメールですとか、あとはイントラネット上で案内をさせていただいています。

 では、そこで使っている言葉というか、アプローチはどんな感じで。

増谷:管理職向けのセミナーについては「管理職は全員受けてくださいね」という決まりがあるんです。

 必須で、なるほど。

増谷:一般の方向けのセミナーは、お昼休みに開催しているんです。よりカジュアルに、あまり研修のような感じにならないように気をつけています。セミナーという名前も、来年から変えましょうかという話を内部ではしています。

 開催はどのくらいの頻度ですか。

増谷:上期、下期でそれぞれ3回、年間6回ですね。集中して開催する強化月間を設けています。皆さんが親御さんのところに帰省した後のタイミングがいいかなと思って、今年は2月、3月と、7月、8月に行いました。

 親の今の姿を見て、がくぜんとして帰ってきたときを狙うんですね。

川内:これは有効打が出やすいですね。

 人数はどれぐらいになるんですか。

増谷:ばらつきはありますが、毎回数十名の方に参加していただいてます。

川内:まず、管理職の方向けにやってくださっているというのが素晴らしいと思います。管理職は部下から相談を受ける立場ですから、「介護のために休職を」と言い出したら「ちょっと待って」と言える(なぜ「待て」と言うべきなのかは前回『介護休暇が誤解生む? ブリヂストンの担当者と語る「親不孝介護」』参照)。セミナーに出ていただければ、私から「部下に『テレワークで介護すれば?』みたいなことは絶対言わないでください」とお願いすることもできる。

 もう一つ、「会社が行けと言うから行った。聞いてみたら、いや、部下の前にまず自分の親がヤバいことが分かりました」みたいなことをおっしゃる管理職の方が意外に多いんです。

 他人事だと思っていたら、自分のことだったと。

川内:これを言う方って、さっきYさんが言った「介護の本は手に取らない人」なんですよ。だから企業の方が、介護セミナーに背中を押してくれるというのは、実はものすごくありがたい。個人の内発的動機に任せられていた「介護を考える」という難題にイノベーションが生まれた、くらいに思っています。

増谷:いえいえ(笑)。

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