増谷:そうなんですよ。制度があることそれ自体が、あるメッセージを発信していることになるんですよね。それが、会社の意図とは異なる理解を社員が持つことにつながったりしている。

川内:在宅勤務もしやすくなって、「空気」の共有も難しくなっていますし、制度の存在だけでなく、目的まで、分かりやすくメッセージで伝えるのが大事になってきているということですね。

増谷:介護休暇・休職についても、介護が必要な状況に家族がなったら、自分が休まなきゃいけないんだと思ってしまっている社員がいるようなら「あ、それは違うんですよ」と知らせないといけない。

川内:そういうことを企業の担当の方が社員さんにおっしゃってくれることが、ものすごく重要ですし、私としてはありがたいです。

「休ませることがサポート」という意識では、社員は救えない

増谷:もちろん、介護休職が本当に必要な人は使っていただきたいんですよ。一方でそれによるリスクは、会社としてはできるだけ少なくなるようにしていますけれども、ゼロではありません。キャリアの面でもそうですし、収入の面でもリスクが生まれてきますので、その上で、「本当にこのタイミングで、この期間、休職が必要なんだろうか?」というところは、ぜひ皆さんに考えていただきたいですし、考えるお手伝いをしたい。こうした情報を川内先生から個別相談で社員にじっくりとお伝えいただいているのは、会社としてありがたいことだなと思っています。

川内:そうなんですよね。企業の中では「休ませることが、会社のサポートなんだ」というような考えがまだまだ支配的ですし、まったくの善意から「リモートで働きながら介護したら?」というアドバイスが会社側からしばしば行われているので、これをどう緩和していくか。難しい問題です。

増谷:そうですね。これは繰り返し発信していって、よい事例を皆さんと共有することがすごく大切だと思うんですよね。

 川内さんには、毎月、私どもの会社で介護の個別相談を実施していただいているんです。私、この部署に来て本当に、「あ、介護って、私の想定していた10万倍ぐらい多様なんだな」と思い知っています。もう想定を超えた数のそれぞれの思い、それぞれの事情があって。

川内:そうかもしれません。確かに。

増谷:これは、画一的にマニュアルを用意できるようなものでは絶対にないんだなというのが、この部署に来てやっと分かったんです。だから、この個別相談の時間をすごく大切にしたいなと思っていますし、セミナーからもできる限り個別相談に誘導するようにさせていただいています。

川内:ありがとうございます。「企業での個別相談」って、どうして重要なのかというと、介護をしている、介護に直面しかけている人が、要介護者(親御さんですね)と離れた場所で専門家と一対一で向き合える機会って、実はほとんどないんですよ。

 あ、そうなんですね? 言われてみれば、ケアマネジャー(ケアマネ)さんとは、親とセットで会うことがほとんどでしょうね。

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