『親不孝介護』では、「仕事などで親と自然に距離が取れているなら、介護が始まったからといって無理に詰めてはいけない」としています。でも、やはり「介護のために親のそばにいたいのに、仕事でそれがままならない」というのは“悩み”になるんですね。
増谷:今のお話で気付いたんですが、会社の介護に対する意識も一つの課題としてはあるかもしれません。
と言いますと。
増谷:当社にも、介護休暇、介護休職の制度があります。そして、制度そのものは意味があると思います。でも、伝え方には注意しなければいけないかもしれません。
伝え方ですか。
休職制度が「自分で介護しないと」という意識を生む面も
増谷:「介護休職」という制度が会社にあるが故に、「親が要介護になったら、自分が休職して、介護を全部引き受けなきゃいけない」と考えてしまう、そんな側面もあるのかなと思って。誤解を恐れずに言うと、休職制度を会社が用意することで、社員の側は「介護をするために、休まなきゃいけない」と思ってしまう側面があるのではないかと。
川内:すごい、これはまったくその通りで、もちろんブリヂストンさんだけじゃなくて、どの企業さんも抱えるジレンマだろうなと思います。
休職制度があることで、「休んでいいから、『君が』親の介護をやりなさい」と言われている気分になるかもしれない。この「君が」が重要ですね。「君が直接手を動かして、介護をやりなさい」とは、会社側は言っていないのですが、まあ、普通は誰だってそう考えちゃうでしょうね。そこが怖いところで。
川内:はい。「親の介護」は、自分で親のおむつを替えたり食事の世話をすることではないんです。自分がマネジャーとして、外部スタッフとチームを組成して、自分にも家族にも、そして親にもストレスなく維持していける体制をつくるという、ある意味とてもビジネス的なことなんです。
介護休暇・休職は、そのチーム組成のために使うべき時間だと。

増谷:でも、誰にとっても初めての体験ですから、「介護休暇」「介護休職」と言われたら「自分が直接、親の世話をするために取るんだ」と思いますよね。
川内:そうなんです。そこに誤解が生まれる可能性がある、と気付くことがものすごく大事なポイントです。この思い込みをなんとか外さないと、介護離職につながってしまう。
介護休暇や休職で、自分で親御さんの介護を始めてしまうと、相互に依存関係が生じて、ヘルパーさんなどの外部スタッフを後から入れることに、親も、そして介護する本人も、抵抗を感じるようになってしまいます。介護は撤退戦で、「治る」ことは基本的にありませんから、終わりが見えない。でも本人はなかなか「治らない」という事実に向き合うことができません。これまで投じた時間や体力がムダだったと思いたくもない。だから「まだ親と自分の努力が足りないんだ」と考えてしまうんです。
そうなると?
川内:「親のために、会社を辞めて、介護に全力を投じよう」となってしまう。これは、仕事の課題解決の経験値が高い、優秀な社員さんほどそうなりがちです。
会社側も「時間をあげるから、あとは自分でやってね、介護ってそういうものだよね」と、思っているスタッフはたぶん多いでしょう。
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