朝4時からべったり張りつく父に疲れ果てる
髙橋:それもあるし、一人で暮らしていたら、家の中で何をしでかすかわからない。すでにしでかしていましたから。新聞や軍手を冷蔵庫にしまっていたし、雑巾で食器やテーブルを拭く。灯油のストーブだから火の元も心配。そもそもご飯を誰かが用意しないと食べない。このまま放置したら死ぬんじゃないかと思って、しばらく様子を見ようと一緒に暮らしました。
一緒に暮らして、しばらくして気づいたのですが、父はこれまで一人暮らしをしたことがないんです。「できない」のではなく「したことがない」。したことがないだけで、もしかしたらできるかもしれない。一人で暮らせるかどうかは、一人にしてみないとわからない。誰もいなければ自分でやるかもしれない、ということで、私たちは家に戻って、父に一人暮らしを試してもらうことにしたわけです。いざという時のために「定期巡回・随時対応型訪問介護看護」があるわけですから。
川内:ちょっと意地悪な質問ですが、そう思ったのは、髙橋さん自身が正直、一緒に暮らすのがツラかったり、疲れてしまったりという背景もあるのでしょうか。
髙橋:はい、それはあります。父が朝の4時から私に張りついている。いやゆる「濡れ落ち葉」状態になってしまったので。父がべったりくっついたまま、同じような話を一日中繰り返されるわけです。
川内:お父さまに依存されてしまった。大変ですね。
仕事できませんよね。
髙橋:そうなんですよ。はぐらかすために、「そろそろ、ほら行かないと」と散歩に出たり。その散歩も最初のころは付き合っていたのですが、父は1日に8回ぐらい散歩するので、こちらは足がパンパンになって、さすがにこれはキツいぞ、ツラいぞというのがありました。
川内:それはそうですよ。
そもそも、「定期巡回・随時対応型訪問介護看護」を導入するときも、その話をしたらお父さんが怒り出しちゃったんですよね。「俺はできる。なんだってできる。冗談じゃない!」と。
髙橋:本人が承諾しないものは利用できないと思いまして、「定期巡回・随時対応型訪問介護看護」も無理かなと諦めかけていたんです。ところがケアマネジャーから「相談するから揉めるんです」とアドバイスされまして。
相談するから怒るわけで、相談しなければいいんですね。何事も相談して決めるというのが民主的ですけど、相談されるほうからすると責任の一端を背負わされるわけで、おそらく父はそのことに怒ったのでしょう。実際、目の前にヘルパーさんが現れたら、「あら~いらっしゃい!」とびっくりするくらい愛想よくお迎えしていました。
川内:素晴らしいアドバイスです。
髙橋:あとは、私たち夫婦が実家にいることで、父は母が亡くなったことを認知できないようでして。私がちょっと母に似ているところがあるのか、父が私を母的なものとして捉えている節があって、母が死んだことを何度も伝えても理解できない。それも分かってほしくて、父を一人にしてみたんです。
(つづきます)
「長男だから、親を引き取るか実家に帰らないと」→必要なし!
「家族全員で、親を支えてあげないと」→必要なし!
「親のリハビリ、本人のために頑張らせないと」→必要なし!
「親が施設に入ったら、せめて、まめに顔を見せに行かないと」→必要なし!
「親と距離を取るほうが、介護はうまくいく」
一見、親不孝と思われそうなスタンスが、
介護する側の会社員や家族を、そしてなにより介護される親をラクにしていく。
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