「孤独」は感じますか?
「それは学問がないとダメです。お兄さんみたいに学問があるから孤独なわけで、あたしのように学問がないと孤独も何もありません」
虚を衝かれ、私は言葉を失った。考えてみれば「むなしさ」も「孤独」も学問上の概念にすぎず、その「ある」「なし」も学問体系へのコミットを意味するだけなのだ。「焦り」についても父は「あせりはないけど、あたしは髙橋です」と答え、「イライラ」は「するんでしょうね」とのこと。最後に「『混乱』はありますか?」と質問すると、こう答えた。
「混乱はどこでもやってます」
どこでもやってる混乱。確かに混乱こそは世間の常態で、私もすっかり混乱した。
『おやじはニーチェ 認知症の父と過ごした436日』より
「ボケているのか、とぼけているのか」。『おやじはニーチェ 認知症の父と過ごした436日』を著したノンフィクション作家の髙橋秀実さんは、認知症の父親を、哲学をもって理解しようと試みます。
“哲学”という切り口で介護を語る人が現れるとは……。髙橋さんと、「親不孝介護」という新たな介護への取り組み方を提唱するNPO法人となりのかいご代表・川内潤さんが、親の介護について語り合いました。(司会は編集Y)
父の言う「ここ」とはどこを指すのか?
『おやじはニーチェ 認知症の父と過ごした436日』を拝読しました。最初は普通に介護のことを書いた本なのかなと思って読み出したら、いきなり哲学の話になっていって。
髙橋秀実さん(以下、髙橋):そうですよね、ごめんなさい!

いえいえ。本当にびっくりしました。こういう視点の本は空前絶後じゃないでしょうか。
髙橋:私も『親不孝介護 距離を取るからうまくいく』を読ませていただいたのですが、これは介護の最中に読めればよかったと思いましたよ。もう、終わってしまいましたけど。
NPO法人となりのかいご代表・川内潤さん(以下、川内):本当にお疲れさまでした。
髙橋: 私の本は、介護をされている方の参考にならないのではないかと思って、申し訳なく思っているのですが。
川内:いえいえ、とんでもないですよ。
認知症のお父さんの言葉と、哲学の考え方を絡めるというのが、とても斬新です。あんな想念が、介護中の髙橋さんの中にずっと渦巻いていたのでしょうか?
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