(前回はこちら→買い物を断ったら、施設にいる父は泣き出してしまった)
トーベ・ヤンソンさんの「ムーミン」シリーズで、50年ぶりの改定訳を手がけられた翻訳者、畑中麻紀さんのお父様の介護のお話を伺っています。親と距離を取る「親不孝介護」を実践できている、と思っていた畑中さんですが、お父様が入居したサ高住(サービス付き高齢者向け住宅)が徒歩圏にあって。
翻訳者・畑中麻紀さん(以下、畑中):はい(笑)。
物理的な距離が近いと、ついつい自分でお父様の面倒を見ようとしてしまう、という、貴重な体験談をお聞きしました。自分、新潟に親がいて本当に幸運だったなと実感いたしました。
畑中:「ちょっと天丼買ってきて」と言われても「いや、無理」と自然に思えますよね(笑)。
300キロの距離の力は大きいです。さて、大変ぶしつけですが1つよろしいですか。畑中さんがツイッターに書いていらっしゃったことなんですが、お父様をサ高住に入居させたことについては1ミリも親不孝とは思っていない、と。
畑中:はい。
でもそうおっしゃる畑中さんにして、前回、お父様の面会に行ったとき話すことがなくてつらい、帰ってもいいのだろうか、とおっしゃっていました。
畑中:はい。それを、「すぐ帰って全然OK」と川内さんに言っていただいてほっとしました(笑)。
NPO法人となりのかいご代表・川内 潤さん(以下、川内):2分でもいいと思いますし、なんなら、行かなくてもいいと思います。なぜなのか、は前回お話しした通りです。
はい。それで、ここからが不躾(ぶしつけ)なんですが、親御さんからの電話を着信拒否するのはどう思われます?
「やっぱり親の電話の着拒はやり過ぎだろう」
畑中:えっ、親の電話を着信拒否するんですか、うーん……。
川内:着拒、オーケーだと思います。全然問題ないです。
ですよね? 私もすっかり「親不孝介護」に染まっているので(笑)、そう思うんです。こんな話をしたのは、先日この話題が同世代の酒の席で出て「介護は家族に大変な負荷が掛かるよね」というところまではみんな意見が一致したんですが、「親の電話に出るのがしんどい。本音では着拒したい」と漏らしたヤツがいて、そうしたら場の雰囲気として「気持ちは分かるけれど、それはやり過ぎだろう」となって、「えっ、そうなの?」と。
川内:当然着拒していい、と思っていないことに驚いたわけですね(笑)。
はい、川内さんと『親不孝介護』をつくっている間に、すっかりそういう考え方が身について(笑)。で、さっき、畑中さんがちょっとあたふたしていたじゃないですか。あれはもしかして。
畑中:そうなんです。父から電話が来たんです。分かっちゃいますか。
大変失礼ですが、すごく苦しそうな顔を画面越しにされていたので気になって。
川内:実は私もまったく同じことを考えていました。
畑中:ああ、分かっちゃいましたか(笑)、うちの家庭事情も相まって、実は最悪のタイミングだったんです。分かっちゃいますかね。父の電話は、さっきもそうですが、なぜかタイミングが悪いときに来る気がするんです。
川内:そうなんですね。
畑中:そうなんです。私には2人の子どもと夫がいて、仕事もあって、そっちの方をもっと本当はやらなきゃいけない。だから、思い切って、と思うことも正直あるんですけれど、やっぱり着信拒否ってすごくきつい言葉ですよね。
川内:そうですね、言葉がよくないですよね。
拒否ってのがよくないですよね。攻撃的な感じなのかな。
川内:でも、畑中さんの感情のトリガーがお父様からの着信によって引かれてしまうのならば、それはお父様の介護にとってもよいことにはならないです。これ、最初に編集Yさんが言った距離の話と同じだと思うんです。
畑中:なるほど。
川内:携帯電話(スマホ含む)という、距離を勝手に超えちゃう機械が今はある。その機能をオフにしていただくというのは、距離感を保つ、という、介護に最も重要なことのために、むしろ必要なことじゃないか。そう思いません?
畑中:ああ、はい。
川内:そんなことを言う私は携帯電話1つで妻にいつも呼び出されるわけですよ。恐ろしいですよね(笑)。
恐ろしいですよね(笑)。
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