畑中:そうですね。私が行くと、とにかく「どこそこのお弁当を買ってきて」とか、「カップラーメンを食べたい」「菓子パンが食べたい」と。冷蔵庫もミニキッチンもある部屋なので、冷凍食品とかもいっぱい買って。
川内さん、いかがですか。
施設に入れば距離が取れるわけじゃない
川内:はい、畑中さんの夫の方がおっしゃっていることと、まったく私は同意見です。その通りだろうなと思います。いろいろな方の相談を受けていて感じるんですけど、何かに依存されている(介護サービスの)利用者さんって、本当に自分が何をしたいのかということが、うまく見いだせてない方が多いようなんですね。
私はお父様と直接会話しているわけじゃないので、何とも言えないんですけど、家族に何でもやってもらうことがお父様の目的になっていて、それでご自分の寂しさを埋めるような形になっているんじゃないか。それでご自身が「何がしたいのか」が見えなくなってしまっていないかなと。
食事はいわば口実で、お父様の不安か不満が違う形で出ているのでは、ということですか。
川内:うん、ご家族の負担も当然、心配なんですけど、ご本人はだんだんこれから、体が動かなくなっていったり、できることが少なくなっていくわけです。それでも生きていかなきゃいけないのですが、そこで窮する方って、誰かへの依存が大きい方が多いように思います。だからお父様にとってもご家族にとっても、手を引く、「距離を取る」ことが、すごく大事だろうなと思いました。
施設に入ったら距離が自動的に取れる、わけじゃないんですね。
畑中:施設に入ってもらうところまでは「親不孝介護」ができていたと思うんですが、徒歩圏にあったことで、逆に距離を縮めてしまったんだと思います。
川内:お父様は、無意識かもしれないんですけど、娘や息子夫婦が来てくれる口実として、いろいろなことを要望されているのかもしれませんよね。お父さんが本当にこの食事がまずいんだったら、「もっとこういう味付けにしてほしいんだよね」と施設の職員さんたちとやりとりする可能性があります。そうすることが、実はお父さんの自立のサポートになるし、スタッフにとってもお父さんとの距離を縮めていいサービスを提供するきっかけにもなる。
ご家族は100%、善意でお父さんの面倒を見ようとするわけだけれど、それが実はスタッフの足を引っぱっている、そんな構図ですか?
川内:はい、ご家族の気持ちは分かるので難しいだろうなと思いますが、そういうことだと思います。
畑中:ですね。親と距離を空けるのは思っていたより難しいです。
物理的に近いと本当に難しそうですね。私は東京と新潟だったのが、こうなるとむしろ幸運だった、という。
畑中:父は自分で出前を取っちゃったりもするんですよ。通販で買い物したりとか。ちょっとだけ現金も持っているので。
やっぱり時々、大量に買いすぎたり、支払いを忘れていたりすることがあるんですよね。そういうときに、私はすごく怒っちゃって。それで「父親の出費は全部私がしっかり管理しないと」という気持ちになっちゃったんです。
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