子どものころに愛読したトーベ・ヤンソンさんの「ムーミン」シリーズが、50年ぶりに翻訳がアップデートされて講談社から出ていました。今回のゲスト、翻訳者の畑中麻紀さんは、新版全9巻のうち1~8巻の改定訳を手がけ、さらに作者の評伝『トーベ・ヤンソン 人生、芸術、言葉』(フィルムアート社)も翻訳(森下圭子さんと共訳)を担当しています。

 その畑中さんが『親不孝介護』に出会ったのは、ラジオでした。

 22年12月17日の『ロンドンブーツ1号2号 田村淳のNewsCLUB』で、「川内潤『両親の介護が楽になる“親不孝介護”』」の回を聞いて「自分は“親孝行介護”にハマりつつあるのでは?」と気付かれたそうなのです。さっそく書籍を電子版で読んだ畑中さんは、感想をこうツイートしてくださいました。

ムーミン全集の新版、第1巻『ムーミン谷の彗星』。クレジットの訳者は底本を訳した方の名前になっています。講談社文庫と青い鳥文庫のムーミン全集は旧訳版ですのでご注意を
ムーミン全集の新版、第1巻『ムーミン谷の彗星』。クレジットの訳者は底本を訳した方の名前になっています。講談社文庫と青い鳥文庫のムーミン全集は旧訳版ですのでご注意を

 寝たきりを脱した後、家族は腹立ち案件てんこ盛りの日々でした。昨日、ラジオを聴いていたら介護の話。川内潤さんが提唱されている「親不孝介護」私は実践してるぞ、と思ったらとんでもない。この1ヶ月、親孝行介護の罠にはまっていたのだった!

 すぐに川内潤さん@kawajun1980の『親不孝介護 距離を取るからうまくいく』を購入。父をサ高住に入れて、生活を軌道に乗せるまではしっかり親不孝介護ができていた…けど、軌道に乗ってからも世話を焼き過ぎていた。そして、

 父が介護士さんや私に向けて度々発していた「娘が居ないと生きていけないんですよ」に囚われていた。介護サービスをがっつり付けているので、娘は毎日まーいにち通わなくてもよかったのだ。実家・私の自宅・サ高住が全部徒歩圏の罠にすっぽり嵌っていたのでした。

 本を出して、ラジオ出演したことが、さっそく誰かの役に立った!と勇んだ私たちは畑中さんにコンタクトを取り、実践していたはずの“親不孝介護”が、親孝行介護に転じてしまったいきさつをうかがってきました。(進行役は編集Y)

今回はお忙しい中、ありがとうございます。

畑中:いいえ、こちらこそ、ちょうどいろいろ教えていただけて嬉しい、と思っていたところです。

川内さんがウェブ会議(※取材はオンライン)に入ったら、何でも聞いてください。フィルムアート社さんから出されたトーベ・ヤンソンさんの評伝、すごく面白かったです。子どものころに読んで感じた、すっきり分かりやすく“ない”、不思議な余韻にはやっぱり作者の意図が隠れていたのか、と、半世紀越しに知ることができて感激しました。

畑中:ありがとうございます。

あの本は、別の方が翻訳した本が先に出ていたんですか。

すごいぞツイッター、すごいぞラジオ

畑中:ではなくて、森下さんと一緒に翻訳して講談社さんから出ていたんですけれども、版元との契約が更新されなかったんですね。いわゆる絶版になったんですけど、あまりにも惜しいので、ツイッターで呼びかけたら、フィルムアート社さんが手を挙げてくださったので。

おーっ。

畑中:ただし、契約上、最初から訳し直す必要がありました。

そうなんですか。あ、川内さんがいらっしゃいました。

川内:どうも、よろしくお願いします。初めまして。

畑中:よろしくお願いいたします。

ちらっとツイッターのお話が出ていたんですけれど、私たちも畑中さんの介護関連のツイートを見て、「伝わったぞ」と、本当に……うれしいと言っては語弊があるんですけれど、やっぱり頑張れば伝わるんだな、働きかけるのは大事だな、と改めて。

畑中:ラジオをきっかけに聞いたり、読んだりって結構あるんですよ。すごくいいメディアだなと思います。

ながら聞きができますもんね。

畑中:そうなんです。『親孝行介護』の番組も、台所で、ご飯をつくりながらでした。川内さんのお話を聞いていて、思わず手が止まりましたから、えーっと思って。

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