誰にでも起こり得る孤独・孤立の問題。自分自身のケアだけでなく、周囲の人にどう気を配るかも社会全体でその問題に向き合う上で重要なポイントとなる。チャット相談窓口を運営するNPO法人「あなたのいばしょ」(東京・港)の大空幸星理事長は「お節介」が重要だとしつつ、悩みを受け止める「傾聴」に徹する姿勢も不可欠だと説く。国や企業、そして個人、それぞれのレベルで孤独・孤立問題にどう対処していくべきかを聞いた。

【今こそ「孤独解消」 孤立する社員を救う処方箋】記事ラインアップ
※内容は予告なく変更する場合があります
(1)リモートワークは理想的な働き方か 増幅する孤独
(2)すれ違う上司と部下 なぜ組織の中に孤独が生まれたか
(3)「国民8割に孤独感 みんな孤独予備軍」 小倉担当相の危機意識
(4)人付き合いある? 孤立してない? 「あなたの孤独度」を診断
(5)SOMPO、SCSK、NTTコム…社員の幸福度向上、経営の中心に
(6)昭和の社内行事・運動会が再評価 若手ベンチャーで結束感爆上がり
(7)「脳トレ」川島隆太氏が警鐘、リモート社会の行き着くディストピア
(8)産業医が見る「孤立・孤独」時代の上司のあり方 江口尚氏
(9)労基署立ち入りから人材重視へ転換 すし銚子丸の「社員の幸福度」
(10)孤独をなくす「傾聴」と「お節介」 あなたのいばしょ大空幸星氏(今回)
(11)楽天、アステリアのウェルビーイング 「CWO」を置く理由
(12)「脱PDCAで幸福度をもう一度上げよう」慶応大学・前野隆司教授
(13)テクノロジーで幸福度を上げる ハピネスプラネット矢野社長
(動画)10月10日号特集「孤独が会社を蝕む」を担当編集委員が解説

大空幸星(おおぞら・こうき)氏 NPO法人「あなたのいばしょ」理事長
大空幸星(おおぞら・こうき)氏 NPO法人「あなたのいばしょ」理事長
1998年生まれ。慶応義塾大学総合政策学部在学中。2020年3月、24時間365日チャット相談に応じるNPO法人「あなたのいばしょ」を設立。孤独対策、自殺対策をテーマに活動。内閣官房の「孤独・孤立の実態把握に関する研究会」構成員や「孤独・孤立対策ホームページ企画委員会」委員、「こどもの居場所づくりに関する検討委員会」委員などを務める。松山市出身。

社会における孤独・孤立について、どのような問題意識を持っていますか。

大空幸星・NPO法人「あなたのいばしょ」理事長(以下、大空氏):まず、雑誌とか文学の世界だと、孤独を非常に前面に出す場合があるんですね。「孤独を愛せ」とか「孤独な男の生き方」とか、「孤独が人を強くする」的な。ただ、僕らが言っている孤独というのは「Loneliness」なんです。自ら望んで一人でいる孤高、英語でいう「Solitude」とは違う。そこは完全に分けて考える必要があります。

 前者の望まない孤独、すなわち社会的関係の不足から生じているものがあらゆる社会問題の源流に位置していると考えています。悩みや問題を抱えたときに誰にも相談できない、または頼れないことで、孤独が慢性化して長期化してしまっている。

 当然、孤独は様々な弊害を生むんですよね。例えば、死亡リスクを高めるとか、糖尿病の発生因子になるとか、タバコを1日15本吸うのと同じくらい健康リスクがあるともいわれているんです。さらに、問題や悩みが非常に複雑化して、結果的に命を絶ちたいという状況まで追い詰められてしまうというところが最も恐ろしいんです。

コロナ禍で孤独問題は重層化した

新型コロナウイルス禍の影響で、孤独・孤立を取り巻く状況はどのように変わったと見ていますか。

大空氏:大前提として、孤独というのは全ての人に起こる問題なんです。周りに人がいるとかいないとかは関係ないんですね。例えば、コロナ禍で芸能人の方の自殺が相次ぎましたが、別に社会的に孤立はしていなかったわけです。孤立していないけど、孤独は感じると。会社員が自殺するケースはたくさんありますが、会社や家庭はあるわけで、孤立はしていない。

 社会や地域の中で孤立はしていないのに孤独を感じる、というのがポイントです。コロナ禍前は周りに頼れる人がいた人も、リモート会議やリモート授業になったことで、そうした人にアクセスしづらくなった。それまでも頼れる人がいなかったという人も含め、あらゆる人が孤独を感じるようになったという側面があると思います。我々への相談内容も、限定的なものから重層的なものに変わってきた実感があります。

具体的にどのような悩みが寄せられるのですか。

大空氏:1日に1500件くらい来る相談の中で「自ら命を絶ちたい」という内容は多いです。背景には重層的な悩みがあって、コロナ禍でストレスのはけ口がなかったり、つながりが絶たれたりしたことで積み上げられてきたものです。コロナ禍も2年以上がたち、ものすごくぐちゃぐちゃしたような感情になってしまった人が多い気はしますね。

 私たちへの相談自体が、10~20代で8割くらいを占めますが、30~40代の方も多く相談されます。自らの命を絶ちたいというのは、どちらかと言えば30代や40代の方が比率は高いですね。実際の自殺者数もそちらの年代の方がボリューム層になってきていますから。

そうした方々の悩みの内容は何に起因するものが多いのですか。

大空氏:人間関係がほとんどです。もう9割以上がそうだと思います。

 性別では、私たちの窓口への相談者のうち、約7割は女性で、1.5割が男性、残りは性別を「その他」と答える人です。ただ、実際の自殺者数の7割が男性なので、相談に来る層とのギャップが非常に大きい。すなわち、男性のほとんどは相談に来ない。そして、来た段階では「もう死にたい」という、本当に最後の状態ですね。

悩みに悩んで、相当に思い詰めた結果、相談に来ると。

大空氏:そうです。逡巡(しゅんじゅん)した先に、こうした窓口がある。日本社会にはスティグマ(烙印=らくいん)があるので、悩みをさらけ出すことが恥ずかしいし、負けだと。スティグマのベクトルは外にも内にも向いているわけですよね。

 自分は孤独だと認めたがらない人がたくさんいて、相談窓口なんて必要ないと考える人もいると思います。だから、相談に来た段階でもうギリギリの状態、最後の最後の状態という方が多いんです。もっともっと手前で相談に来てもらわないといけません。

緊急性の高い相談が来るとサイレンで社内に知らせる
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