新型コロナウイルスの感染拡大で、リモートワークが一気に普及した。チャットやメール、ビデオ会議など画面越しのやり取りにもどかしさや、とりとめのなさを感じたことはないだろうか。「脳トレ」で著名な東北大学加齢医学研究所の川島隆太所長によると、こうした違和感は脳科学的にも裏付けられるという。リモートでのコミュニケーションが日常化することで、社会から共感が失われつつあると警鐘を鳴らす。

【今こそ「孤独解消」 孤立する社員を救う処方箋】記事ラインアップ
※内容は予告なく変更する場合があります
(1)リモートワークは理想的な働き方か 増幅する孤独
(2)すれ違う上司と部下 なぜ組織の中に孤独が生まれたか
(3)「国民8割に孤独感 みんな孤独予備軍」 小倉担当相の危機意識
(4)人付き合いある? 孤立してない? 「あなたの孤独度」を診断
(5)SOMPO、SCSK、NTTコム…社員の幸福度向上、経営の中心に
(6)昭和の社内行事・運動会が再評価 若手ベンチャーで結束感爆上がり
(7)「脳トレ」川島隆太氏が警鐘、リモート社会の行き着くディストピア(今回)
(8)産業医が見る「孤立・孤独」時代の上司のあり方 江口尚氏
(9)労基署立ち入りから人材重視へ転換 すし銚子丸の「社員の幸福度」
(10)日本の孤独をなくすには「あなたのいばしょ」理事長大空幸星氏
(11)楽天、アステリアのウェルビーイング 「CWO」を置く理由
(12)「脱PDCAで幸福度をもう一度上げよう」慶応大学・前野隆司教授
(13)テクノロジーで幸福度を上げる ハピネスプラネット矢野社長
(動画)10月10日号特集「孤独が会社を蝕む」を担当編集委員が解説

川島隆太(かわしまりゅうた)
川島隆太(かわしまりゅうた)
1959年生まれ、千葉市出身。85年東北大学医学部卒業、89年同大学大学院医学研究科修了。スウェーデン王国カロリンスカ研究所客員研究員などを経て、14年から現職。17年から東北大学スマート・エイジング学際重点研究センター長も兼ねる。「脳トレ」で知られ、主な著書に「スマホが学力を破壊する」「さらば脳ブーム」など。(写真:竹井 俊晴)

コミュニケーションに関わる脳の活動を研究されています。最近の研究結果からはどんなことが分かっていますか。

川島隆太・東北大学加齢医学研究所所長(以下、川島氏):コミュニケーションが深まってお互いを理解し、共感するようになると、脳のある部分の活動が同期する現象が起きることが明らかになっています。

 発見のきっかけは、絵本の読み聞かせでした。親が子どもに読み聞かせをしているときに親子の脳を測定すると、親は読み上げているだけ、子どもは聞いているだけなのに、この現象が起きていました。

新型コロナウイルスの感染拡大でオンラインのやり取りが増え、コミュニケーションの在り方が大きく変わりました。

川島氏:脳活動が同期する現象がオンラインでも果たして起きているのかどうか。東北大学の学生を5人1組にして、学部の勉強や趣味について、対面とオンラインで会話してもらい、脳活動を比較する実験をしました。

 結論から言えば、対面で会話をしているときには話が盛り上がるとどんどん同期が高まっていくのに対して、オンラインの場合には、会話は続いているのに、全く同期しないということが分かりました。

 我々の脳は、少なくとも現状のリモートコミュニケーションでは、シンクロしないことが証明されました。これはコロナ禍以来、約2年半にわたってリモート中心の生活を送ってきた我々の実感とも一致しています。

画面越しでは視線が合わない

脳活動が同期しない。共感しないのはどうしてでしょう。

川島氏:理由は2つあると考えています。まず視線が合わないのが致命的ですね。画面の相手の顔を見ると視線がずれてしまうし、相手と視線を合わせようとカメラを見ると、今度は相手の顔が見えない。目と目で語り合うこと、相手の表情をつかむことがどうもうまくできない。

2つ目の理由はなんでしょうか。

川島氏:リモートで画像を見ていると、連続的に動いているように見えるかもしれませんが、実際には1秒間に30フレームといった数字で表されるように、何枚もの静止画で構成されている。我々の脳というのは非常に精緻なシステムで、画面に映っているものはリアルな人ではなくて、紙芝居が演じられているという認識をしています。

 我々の意識の上の知覚と、それから脳が見ているものとでは、後者のほうが精緻なんです。

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