社員の孤立・孤独解消のカギは、幸福度を上げる取り組みだ。会社に個人が合わせる考え方の転換。社員情報の社内公開……。文化を一変する大改革で、人材力再構築につなげる企業も出てきた。
【今こそ「孤独解消」 孤立する社員を救う処方箋】記事ラインアップ
※内容は予告なく変更する場合があります
(1)リモートワークは理想的な働き方か 増幅する孤独
(2)すれ違う上司と部下 なぜ組織の中に孤独が生まれたか
(3)「国民8割に孤独感 みんな孤独予備軍」 小倉担当相の危機意識
(4)人付き合いある? 孤立してない? 「あなたの孤独度」を診断
(5)SOMPO、SCSK、NTTコム…社員の幸福度向上、経営の中心に(今回)
(6)昭和の社内行事・運動会が再評価 若手ベンチャーで結束感爆上がり
(7)脳トレ・川島隆太氏「脳が必要とするのは人との関わり」
(8)「無駄な時間は無駄ではない」産業医科大学・江口尚教授
(9)「社員の幸福度を上げる」人材重視に転換した銚子丸
(10)日本の孤独をなくすには「あなたのいばしょ」理事長大空幸星氏
(11)楽天、アステリアのウェルビーイング 「CWO」を置く理由
(12)「脱PDCAで幸福度をもう一度上げよう」慶応大学・前野隆司教授
(13)テクノロジーで幸福度を上げる ハピネスプラネット矢野社長
(動画)10月10日号特集「孤独が会社を蝕む」を担当編集委員が解説
「育児をしている時、仕事との両立が大変でした」
「どうやって乗り越えたの」
「職場の人が助けてくれてとてもありがたかった。今度は私がサポートする側に回りたいですね。私はこれをマイパーパスにしようかなと思ってます」
SOMPOホールディングス傘下の損害保険ジャパン会計統括部の髙井裕美子課長は昨年春から19人の部下と1対1で毎週のように、こんなミーティングを繰り返している。
これは会話の中にも登場したマイパーパスを設定するための話し合いだ。「パーパス」は最近、「存在意義」といった意味の経営用語としてしばしば使われるようになっている。SOMPOでいうマイパーパスとは、「(社会に対して)自分がやってみたいこと、実現したいこと」だとSOMPOの村上信毅・人事部課長は言う。
日本の企業と社員の関係は長く会社主体だった。入社後の配属、転勤・昇進、評価は全て会社の思惑で決まる。個人の側もそれを不思議と思わず、単身赴任も、意に染まぬ異動も受け入れてきた。昇給と昇進は、そのための即物的な見返りだった。ところが、この10年足らずの間にそれは大きく変わってきた。

変質したコミュニケーション
価値観などにおける会社と従業員のずれは、今は、孤立・孤独の要因になる。従来は、昇進ややりがいなどで従業員のやる気を高めて会社に引き付けていたが、若い世代ほど、それは一時的な「刺激」にすぎず、長続きのするものではなくなってきた。
一方で、例えば育児休暇制度があっても事実上、男性は取りにくいといったことは、最近の従業員には認められにくくなっている。ワークライフバランスなどの社会課題への会社の関心が薄いか、本音と建前の違う古い会社と見なされるからだ。
SOMPOの取り組みは、そんな会社と従業員の関係に切り込むものだ。会社が掲げる存在意義に従業員はただ合わせるのではなく、「個人のパーパスがあって、それを実現する場として会社がある」(村上課長)と考える方向へ逆転を促し始めたのだ。
それだけではない。マイパーパスを策定して公開すれば、上司・同僚の人柄・考え方、行動をより深く知ることができる。そうなれば従業員の間のコミュニケーションも、指示・報告・評価といったそぎ落とされたものから、より多様になる。
すると、お互いの情報量は増え、人となりを理解して認め合えるから協力関係も密にしやすい。孤独感は当然小さくなっていく。それは「従業員の幸福度の向上であり、前向きさや創造力につながる」(村上課長)と考えているのだ。
それにしてもなぜ今、これまでにない角度から企業と従業員の関係に入ってきたのか。背景には損保市場への危機感がある。正味収入保険料の約60%を占める自動車保険は2050年には市場規模が半減するとの予測もある。既に介護など新たな分野に参入し始めているが、従業員が主体的に仕事に取り組み、創造力を発揮して新事業を起こすことは生き残りに必須でもあるのだ。
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