このような高い汎化性能を活用すべく、我々は制御技術の実用化に向けて取り組んでいます。ここまでご覧いただいた事例はモビリティーやロボットを動かすものでしたが、さらに複雑なシステムにも取り組んでいるわけです。
次は化学プラントの事例です。化学プラントには非常に多くの制御パラメーターがあります。なおかつもう一つ難しい問題としては、先ほどのロボットであれば、何かおかしなことがあればモーターを緊急停止すれば止めることができますが、プラントは化学変化が常に起こっているわけです。
そのため、何か異常が起きたからといって、異常が起きた部分だけをすぐに止めても、異常が起きていない部分は常に生産を続けていますし、いきなり化学反応は止まりません。
機械を緊急停止したとしても、すぐには化学変化が止まらない。そうすると何が起こるかといったら、下手をしたら、その前のプロセスからどんどん生産物が出てくるのに、あとが止まってしまって流れず、結果的に爆発してしまう可能性もある。そういう非常にミッションクリティカルな分野においても、我々は自動制御を実現しようとしています。
不測の事態にも対応できる
こういった分野ではシミュレーターの活用が非常に重要になってきます。プリファードネットワークス(PFN)では化学プラントの化学的な挙動の予測精度を上げながら、全自動運転に向けて現在取り組んでいます。現状では1つの装置に限定すれば2日間にわたる自動運転ができるようになってきたので、より長時間の自動運転やより複雑なシステムの自動運転に向けて取り組んでいるところです。
完全に自動運転にするのはまだ先の世界だったとしても、プラントを自動制御できれば、人がパニックを起こしてしまうような不測の事態にも対応できます。また、熟練を要するオペレーターの育成や少子高齢化を考えたときに、人と機械が協調することで高い安全性を保ちながら操業を行っていくことにつなげていきたいと考えています。
こういった非常に大規模なシステムの自動運転でも、深層学習はこれから極めて重要な意味を持つようになると思いますし、現実世界で重要かつミッションクリティカルなデバイスの自動化の実現に向け、まだまだ道半ばではありますが、日々取り組んでいます。
以上、私からは、深層学習が持つ3つの力について説明しました。最初に「認識」について重点的に説明しましたが、人間にとって目や耳の感覚が重要であるように、環境を正確に認識することは自動化を進める上で非常に重要なことです。
また、自動化だけでなく、さまざまなアプリケーションを実用化していく上でも重要な意味を持っています。認識についてはこのあとで何回も出てくると思いますので、「こういうことも認識できるんだ」といった理解を深めていただければと思います。
さらに、「生成」「制御」についても説明させていただきました。そのような分野が進展していくことによって、例えばエンターテインメントの世界に大きな影響を与えるでしょうし、創薬や新材料探索の分野にも大きな影響を与えることは間違いないと思います。
また、制御について、非常に柔軟な制御が可能になると申し上げました。それによって、自動化や自動運転、ロボットの自律移動といった分野で、さまざまな形で応用が進んでいきます。自動運転といってもクルマやロボットだけでなく、より大きなシステムの自動運転でも深層学習が大きな意味を持っていくと考えています。
ここでは大きく3つの力を中心に説明しましたが、深層学習は3つの力だけではなく、異常検知や最適化など、さまざまな力を持っています。そして、すでにさまざまな分野で活用されていますし、その範囲はさらに広がっていきます。
本書はさまざまな事業分野で深層学習(ディープラーニング)を課題解決に役立て、本質的で応用可能な思考法を身につけるためのものです。第1章では、AI技術で本質的に何ができるかという“WHAT”について、「3つの力」に分けて説明します。第2章では、機械学習・深層学習がどのような仕組みで動いているのかという“HOW”について、プログラミング言語や数式を使わず、例を挙げながら解説。
第3章では、Preferred Networks(PFN)が実際に手掛けた事業現場への応用例を、第4章では「AIの未来」について紹介します。そして最終章では、そもそもなぜビジネスに「AI」と呼ばれる技術が必要なのか、という根本的な“WHY”について、インタビュー形式で明らかにしています。
本書をお読みいただけば、機械学習・深層学習・強化学習や、それらの機能である認識や生成、制御などを「AI」と一緒くたにして議論することがビジネスの現場ではあまり意味をなさないことがお分かりいただけるでしょう。
ビジネスパーソンの皆さんにとって、本書が「AI」の本質的な原理やメリット、限界を知り、ビジネスの現場でいち早く役立てるための一助となれば幸いです。
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