入れ込み客数ばかりを追っていては、観光で地域を潤すことはできない。いかに長く滞在してもらい、かつ滞在中にどれだけ多くの金額を使ってもらうか、といった発想が欠かせない。日帰りではなく1泊、さらに2泊、3泊と長く泊まりたくなる環境を整え、宿泊や食事以外にも消費を促すアクティビティを用意する。戦略的に観光のアップデートを進めるのが、八ヶ岳山麓の長野県茅野市だ。上質ながらどこか懐かしい。帰るのが惜しく、また訪れたくなる。そんな新しい滞在型観光の模索が始まっている。

八ヶ岳山麓の古民家を改装した宿泊施設(写真:伊藤菜々子)
八ヶ岳山麓の古民家を改装した宿泊施設(写真:伊藤菜々子)

 青空に八ヶ岳が映える夏、紅葉が燃える秋、氷点下2桁にまで気温が下がる厳冬を経て知る、春の喜び――。

 東京都内から特急列車で2時間ほどの距離ではあるが、長野県茅野市はくっきりとした四季の移ろいを感じられる場所だ。この地で、滞在期間の延長を始め、アフターコロナの観光を考える上で、示唆に富む取り組みが始まっている。

 滞在期間の短さは日本の観光の特徴であり、乗り越えなければならない課題だ。観光庁の旅行・観光消費動向調査によると新型コロナウイルス禍前の2019年、日本人の国内旅行者数は延べ5億8710万人。内訳は宿泊旅行が3億1162万人、日帰り旅行が2億7548万人で、半数近くが日帰りだった。消費額では宿泊が17兆1560億円、日帰りが4兆7752億円と宿泊の方が3倍以上も大きい。滞在期間が延びれば客の落とすお金はおのずと増える。

 宿泊日数もまた短い。公益財団法人日本交通公社(JTBF)の調査では、19年の国内宿泊旅行の5割を1泊2日が占めた。労働力人口の減少に悩む地方の観光業にとって宿泊旅行の長期化は必須。宿泊日数が長いほど、オペレーションの負担が少なくて済むからだ。

 例えば、1泊の客を2組受け入れた場合、チェックインの業務は2度になる。これが1組2泊なら1度で済む。単価が変わらないのなら現場への負担を減らしつつ、同じ収益を上げることができるのだ。

 滞在期間を延ばすポイントはやはりインバウンドだ。観光庁の訪日外国人消費動向調査によると、19年に観光目的で日本を訪れた外国人の平均宿泊数は6.2泊。最も長いフランス人の場合は14.5泊にもなる。

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