福岡県南部に位置する“水郷”柳川市は、かつてインバウンド(訪日外国人)が押し寄せ、オーバーツーリズムに頭を悩ませた観光地だ。しかし、新型コロナウイルス禍によって街から外国人の姿が消え、観光事業者は生き残りをかけた戦略の転換を迫られる。柳川藩藩主の末裔が運営する老舗旅館もその一つ。18代の女性社長が決めた覚悟とは。

観光客を乗せた小舟が枝垂れた柳をかすめて進んでいく。かさをかぶり櫂(かい)を操る船頭が吟じる童謡が街にこだまする──。
ここは福岡県南部に位置する“水郷”柳川市。詩人・北原白秋の出身地として知られ、街を縦横に流れる運河での川下りや、特産のうなぎ料理が名物だ。
街中でひときわ目を引く白い洋館を目指すと、「柳川藩主立花邸 御花」にたどり着く。かつて、この地を治めた5代藩主・立花貞俶が18世紀前半に建てた別邸がルーツで、7000坪ある敷地の全てが国の名勝に指定されている。現在も藩主家の末裔(まつえい)が切り盛りをする料亭旅館だ。

8月前半に足を運んだ際の柳川はしっとりとした情緒にあふれ、御花にも落ち着いた空気が満ちていた。だが、立花家18代の立花千月香社長によれば、「新型コロナウイルス禍の前は全く異なる景色だった」という。
年に120万~140万人もの客が、人口6万人余りの小さな街に押し寄せた。九州というアジア大陸に近い立地もあって、インバウンドも多数。船頭が口ずさむ白秋の童謡はいつしか外国人にも分かる「ドラえもん」や「となりのトトロ」の主題歌の大合唱に変わった。
御花にも観光バスが列をなした。繁忙期の春と秋にはスタッフ100人掛かりで来店客をさばき、午前11時から午後3時まで30分の入れ替え制で1日に1500食ものうなぎ料理を提供した。食事を済ませた人々はそそくさと次の観光地に向かう。
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