インバウンド(訪日外国人)数の増加に沸いていた新型コロナウイルス禍前の日本の観光業界。星野リゾートの星野佳路代表は「観光立国に向けて決して理想的な状況ではなかった」と指摘する。ホテル経営に手腕を振るう星野氏が「観光再立国」の鍵を説く。

星野佳路(ほしの・よしはる)氏
星野佳路(ほしの・よしはる)氏
星野リゾート代表 1960年生まれ。慶応義塾大学経済学部卒業後、米コーネル大学ホテル経営大学院に進学し、修士号を取得。88年星野温泉旅館(現・星野リゾート)に入社。一旦退社した後、91年に復帰、星野リゾート代表取締役社長に就任。2000年代前半には観光立国推進戦略会議のメンバーも務めた。長野県出身。(写真=古立康三)

コロナ禍で観光業界は大打撃を受けました。6月にインバウンドの受け入れを再開していますが、今後の日本の観光業界をどのように見ていますか。

星野佳路・星野リゾート代表(以下、星野氏):まず言っておきたいのが、(インバウンド増加に沸いていた)2019年の日本の観光は決して理想的ではなかったという点です。そこを捉えないと、アフターコロナは「また19年の状況に戻していくんだ」という発想ばかりになってしまう。当時はいろんな課題を抱え過ぎていたんですよ。

どのような課題があったのでしょうか。

星野氏:19年時点で日本にはインバウンドを含めて、約28兆円の観光消費額がありました。このうち4.8兆円がインバウンドによる消費。逆に言うと日本人の観光ボリュームがものすごく大きかったわけです。この28兆円という金額は、実は日本の産業でいうと5、6番目の規模になります。金融やその他産業とあまり変わらないんですよ。なので、十分に大きな産業なんですよね。

 では、観光産業が他の産業と比べて何が劣っていたか。それは「生産性」です。

 28兆円規模の売り上げがあるにもかかわらず、利益があまり出ていなかった。その結果、投資にお金が回らなくなり、新しい発展や世界のイノベーションについていけなくなる。観光産業は、働き手にお金が回らないんですよ。観光産業で働く人の大半は非正規雇用や季節雇用。正規雇用は3分の1以下にとどまる。

「需要増」よりも大事なこと

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