新型コロナウイルスの世界的な感染拡大は、国内外の観光産業に大きな打撃を与えた。この逆風下にあっても、日本政府は「2030年、訪日客6000万人」の目標を堅持している。海外では人の往来が戻り始め、“ニッポン開国”を心待ちにする人も増えているだろう。だが、少し待ってほしい。私たちは今後も「数」を追う観光を目指すべきなのだろうか。コロナ禍によるインバウンド消失は、オーバーツーリズムの弊害を再考する好機となった。労働力人口が漸減する我が国が実現すべき「観光再立国」の姿は、どうあるべきなのか。にぎわいが戻りつつある今こそ「質」を極め、唯一無二の観光強国に進化すべきだ。(写真:Hiroshi Watanabe/Getty Images、Anne Antonini/EyeEm/Getty Images、PIXTA)
シリーズ
観光“再”立国:「数」から「質」へ

全16回
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#1
[新連載]「観光立国ニッポン」の光と影 各地に活気戻った夏
行動制限を伴わない3年ぶりの夏。各地には多くの観光客が押し寄せた。抑圧された旅行熱は新型コロナウイルス禍が落ち着いた後に噴出が予想され、日本の“開国”も迫っている。その前に熟考すべき論点がある。「日本は再び、訪日客の数を…
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#2
“ニッポン開国”前夜、観光産業が抱える宿題
「インバウンドが支えていた」とされる新型コロナウイルス禍以前の日本の観光業界。20年にわたって推進した「観光立国」の変遷をたどると、我が国の観光産業が抱える光と影が浮かび上がる。日本が本格的に観光立国にかじを切ったのは、…
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#3
菅義偉元首相が目指した観光立国 「数ばかりを追ってはいけない」
2012年の第2次安倍晋三政権発足以来、インバウンド拡大政策の先頭に立ってきた菅義偉元首相。隣国、韓国を意識しつつ、「数」の目標を定めて観光立国への道を歩んできた。しかし、その過程で「数ばかりを追ってはいけない」と気づく…
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#4
星野リゾート・星野代表 観光再立国の鍵は「休み方改革」にあり
インバウンド(訪日外国人)数の増加に沸いていた新型コロナウイルス禍前の日本の観光業界。星野リゾートの星野佳路代表は「観光立国に向けて決して理想的な状況ではなかった」と指摘する。ホテル経営に手腕を振るう星野氏が「観光再立国…
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#5
コロナ禍で見つけた「ホテルに住まう」需要 帝国ホテル・定保社長
都心部で存在感を放つ老舗、帝国ホテル。新型コロナウイルス禍で打撃を受けつつも、長期滞在需要の取り込みなど新たな手立てを講じてきた。2030年代にかけて進む日比谷・内幸町一帯の再開発を経て、どのようなホテルに変わろうとして…
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#6
日本よ、「B級観光」から脱せよ アレックス・カー氏の警鐘
初来日から60年弱、日本の魅力や観光業界の変遷(へんせん)を追い続けてきた東洋文化研究家、アレックス・カー氏。自身も古民家を活用した宿泊施設を手掛ける立場から、現在の日本の観光業の問題点を指摘してもらった。「日本はいつま…
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#7
開園間近のジブリパーク 愛知県・大村知事「人材呼ぶシカケ」に
11月、スタジオジブリのテーマパーク「ジブリパーク」が愛知県長久手市に誕生する。愛知県知事・大村秀章氏は、このプロジェクトを「人材を呼ぶ“シカケ”にする」と語る。世界的に有名なコンテンツを生かした観光資源をどう活用するか…
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#8
コロナ禍で奮起した立花家18代 柳川藩の遺産は「安売りしない」
福岡県南部に位置する“水郷”柳川市は、かつてインバウンド(訪日外国人)が押し寄せ、オーバーツーリズムに頭を悩ませた観光地だ。しかし、新型コロナウイルス禍によって街から外国人の姿が消え、観光事業者は生き残りをかけた事業の見…
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#9
北海道・阿寒湖と宮崎・高千穂の「もう一泊」させる魅力
観光客の滞在時間を延ばすため、「宿泊したい・滞在したい」と思わせる観光資源やインフラづくりに力を入れる観光地は多い。その解の一つとして注目を集めているのがアドベンチャートラベル(アドベンチャーツーリズム=AT)だ。国内で…
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#10
「パリ×京都」で客室単価10倍 “姫”集うホテルの秘密
紅茶で有名なフランス・パリの老舗食料品ブランド「フォション」。その名を冠し、客室単価を大幅に向上させたホテルが京都にある。ブランドカラーのピンクが映える高級ホテルだが、元は修学旅行生も泊まるお手ごろ料金のビジネスホテルだ…
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#11
一度の事故で20億円の損失 世界遺産の観光地が失った信用
4月に北海道・知床半島沖で発生した観光船「KAZU1(カズワン)」の沈没事故。観光を基幹産業とする斜里町にとって、1つの事業者が引き起こした事故の代償はあまりにも大きかった。失われた地域の信用。町は事故後に、どのように変…
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#12
岸田首相、訪日客消費「5兆円超」宣言に欠ける視点
10月11日、政府は水際対策を大幅に緩和する。訪日外国人(インバウンド)特需の再来、そしてコロナ禍による苦境からの復活に向け、観光業界の期待は高まる一方だ。岸田文雄首相としても一連の政策を政権浮揚につなげたいところ。3日…
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#13
特別な「ケ(日常)」を再発見する長野県茅野市の滞在観光
「数」より「質」を重視する観光では、客の滞在期間を延ばし、地域全体で収益を上げる取り組みが重要になる。1泊、2泊と地域にとどまる魅力をつくる。美しい四季が体験できる長野県茅野市では、訪れた客に「特別な日常」を味わってもら…
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#14
“観光長者”シンガポール カジノだけじゃない「稼ぎ方」
今後の日本が目指すべき、「数」と「質」を両立させた観光立国の実現。その課題を既に克服した国がある。アジアの金融センター「シンガポール」だ。“観光長者”から日本は何を学べるのか。取材班は小さな島国で、秘訣を探った。
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#15
日本にも続々進出 シンガポール発高級ホテルの勝ち筋
2019年までの16年間で観光客数を約3倍、観光収入を4倍ほどにまで高め、観光の「数」と「質」の向上を同時に実現させたシンガポール。その間、現地では急速にブランド力を備えていったホテルも続々誕生している。富裕層向けの高級…
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#16
眠れる価値は“夜”にあり 広島に江ノ島、宵闇に集う観光客
美術館や神社といった資源で観光客を集める広島や江ノ島。日中とは異なる“夜の表情”をアピールすることで、観光熱をさらに盛り上げていこうとする取り組みが進む。飲食街の発展のみに頼らない、持続可能なナイトタイムエコノミーの形と…
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70歳定年 あなたを待ち受ける天国と地獄
従業員の希望に応じて70歳まで働く場を確保することを企業の努力義務として定めた、改正高齢者雇用安定法が2021年…
全8回