
政治体制の存続を考えるうえで、その最も根源的な問いとは何か。それは、国民はどのように支配の正統性を与えているのか、である。自由民主主義的な政治体制であろうが、独裁的な政治体制であろうが、この課題は不変である。
体制の存続
中国共産党第20回党大会、そして中央委員会総会を経て、3期目となった習近平(シー・ジンピン)指導部が発足した。党大会での習近平総書記による報告や、新たな中央政治局と中央政治局常務委員会の選出過程とその構成は、習近平総書記への権威と権力の集中を強く印象づけた。しかし、それでも指導部が問われているのは支配の正統性である。
中国共産党には支配の正統性があるのか。中国の国民が、経済成長や生活環境の改善といった、指導部の執政に実績を認めれば、指導部は国民の支持を得る。この支持を通じて国民が、「ああ、共産党による一党支配というのは、中国社会にふさわしい政治体制だ」という共通の了解を持つと、共産党による支配は正統性を有していることになる。
ただし、指導部の実績と支配の正統性は、切り離して考えるべき概念である。実績への支持と支配の正当性は同じではない。指導部が追求していることは、仮に指導部の執政に実績が認められないとしても、共産党による支配の正統性(支配する権利)を維持できるようにする、ということであろう。
この問題を考えるうえで興味深い言葉が、「2つの奇跡(両大奇跡)」である。すなわち、中国共産党による一党体制のもとで、長期にわたって高度成長を実現したという奇跡と、長期にわたって社会の安定を実現したという奇跡を、同時に実現したことである。この言葉に指導部は、中国の現在の政治制度の優位性を訴える意味を込めている。すなわち、「2つの奇跡」は、中国共産党が一党支配体制の正統性を論じる際の重要な概念である。
近年、この言葉は、中国の重要な政治的行事のなかで繰り返し言及されている。例えば2021年11月に開催された中央委員会が採択した、「歴史決議」(「党の百年奮闘の重要な成果と歴史的経験に関する中共中央の決議」)にこの言葉は盛り込まれていた。また同会議で審議した「国民経済と社会発展第14次5カ年計画(21年~26年)と35年までの長期目標」の草案を習総書記が説明した際にも、この言葉に触れられていた。
「わが国の発展は依然として重要な戦略的好機にあるが、それを取りまく国内外の環境は大きく複雑に変化しつつある。わが国には独特の政治的優位性、制度的優位性、発展の優位性および好機の優位性があり、経済社会の発展には依然として様々な有利な条件があり、私たちには『二つの奇跡』という新たな一章を記す自信と意欲、能力がある」
そして第20回党大会の習氏による活動報告でも、新指導部発足後の記者会見でも言及された。「改革開放の40年の不断の努力をもって、我々は経済の快速成長と社会の長期安定という『2つの奇跡』を創り上げた」と。
「2つの奇跡」という言葉にはどのような含意があるのか。本稿は、この問題を考えてみたい。
ハンチントンのパラドックス
中国の公式メディアが「2つの奇跡」に通じる論点に言及したのは、習指導部になってからのことではない。すでに胡錦濤(フー・ジンタオ)指導部の時代に提起していた。11年7月の「人民日報」は、「ハンチントンのパラドックスを中国は克服したのか」と題する論説を掲載していた。
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