
米国のナンシー・ペロシ下院議長の台湾訪問を受けて、中国が台湾周辺でかつてない大規模な軍事演習を実施するなど、米中の対立はますます激しさを増している。米中の「新冷戦」の発端となった南シナ海への中国の進出は、今後どのように展開するのだろうか。習近平(シー・ジンピン)がリーダーに選出された2012年の党大会では、「海洋強国」の建設が提起された。22年10月中旬の党大会では、習近平が海洋に関していかなる発言をするかが注目される。
南シナ海をめぐる米中対立
現在、米国と中国の対立関係は「新冷戦」とも呼ばれるまでに悪化しているが、その発端となったのが南シナ海における安全保障面での摩擦の顕在化である。09年3月、中国海軍の情報収集艦や海上法執行機関の公船、海上民兵が乗船しているとみられる「漁船」が、海南島南方の南シナ海で活動していた米海軍の音響観測艦「インペッカブル」に対して航行妨害をした。
米国は国際法で認められた「航行の自由」に反する行為だとして強く抗議したが、中国は「インペッカブル」の活動が国際法に違反していると反論した。翌年7月に開催されたASEAN地域フォーラム(ARF)に出席したヒラリー・クリントン国務長官は、南シナ海への中国による強硬な進出を批判し、「航行の自由」を擁護することが米国の国益であると演説した。こうして南シナ海は、米中対立の発火点になったのである。
その後、中国は南シナ海における軍事的プレゼンスを着実に強化してきた。14年からスプラトリー(南沙)諸島の7つの岩礁や暗礁を大規模に埋め立てて人工島を造成し、それらを軍事基地化した。18年4月には、空母「遼寧」も参加した海軍史上最大規模の海上閲兵式を行った。19年と20年には、洋上の大型艦船を遠距離から攻撃できる対艦弾道ミサイル(ASBM)の試射をした。
また19年12月には、中国にとって2隻目となる空母「山東」が海南島の海軍基地で就役し、南シナ海を管轄する南海艦隊に配属された。このように南シナ海でプレゼンスを拡大している中国軍は、米軍の艦船や航空機に対する妨害行為を繰り返している。22年5月には、南シナ海上空を飛行していたオーストラリアの哨戒機に対しても、中国の戦闘機が妨害行為に及んでいる。
南シナ海進出、中国の狙い
中国が南シナ海への進出を加速させ、軍事的プレゼンスの強化を図る狙いとしては、第1に東南アジア諸国との間で領有権をめぐる争いのある島しょの支配を拡大することが挙げられよう。中国はパラセル(西沙)諸島やスプラトリー諸島など、南シナ海における島しょをめぐってベトナムやフィリピン、マレーシアなどと領有権を争っている。これまで中国は、軍事力に依拠して南シナ海における島しょの支配を拡大してきた。
1974年には、南ベトナム軍を攻撃してパラセル諸島全域の支配を確立した。88年には、ベトナム軍を攻撃し、スプラトリー諸島の6つの岩礁を支配下に置いた。95年には、軍事力による威嚇を用いて、ミスチーフ礁の支配をフィリピンから奪ったのである。また2012年には、中国の公船がフィリピンの公船を追い払って、スカボロー礁の支配を確立した。
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