川村:「千と千尋の神隠し」(2001年、宮崎駿監督)というのも、物語の観点で言うと、かなり変な映画なわけですよ。でも、はちゃめちゃに面白い。でも、その面白さを説明できる人はあまりいない。ああいう作品は最強ですよね。

澤本:川村さんの稀の源って、何なんでしょう。

川村:佐藤雅彦さん(*)との出会いは大きいですね。佐藤雅彦という人は、非常に稀なものを作る稀な人です。CMで言うと、「ポリンキー」とか「バザールでござーる」とか、稀なものを創り出しつつ、多くの人に見てもらうことをあきらめていない人で。

*佐藤雅彦:クリエイティブ・ディレクター。電通在籍中にCMプランナーとして湖池屋「スコーン」「ポリンキー」「ドンタコス」、NEC「バザールでござーる」など国民的ヒットCMを制作。NHK教育テレビ(現Eテレ)の番組からは「だんご3兄弟」のヒット曲も誕生させた。1954年生まれ。

澤本:ああ、佐藤雅彦さん、僕も好きなんです。

川村:そうなんですね。

澤本:佐藤さんは会社の先輩だったんです。僕が駆け出しのコピーライターだったとき、勉強のために、会社の資料課で映像資料を借りまくっていたのですが、そのとき貸出票には、すぐ前に必ず佐藤さんの名前がありました。

澤本嘉光(さわもと・よしみつ) 電通グループ エグゼクティブ・クリエーティブ・ディレクター、CMプランナー、脚本家。
澤本嘉光(さわもと・よしみつ) 電通グループ エグゼクティブ・クリエーティブ・ディレクター、CMプランナー、脚本家。
1966年、長崎市生まれ。90年、東京大学文学部国文科卒業後、電通に入社。ソフトバンク「白戸家」シリーズをはじめ、トヨタ自動車「ドラえもん」、資生堂、東京ガス、サントリー、家庭教師のトライなど、時代を代表する国民的CMキャンペーンを多数手がける。クリエイター・オブ・ザ・イヤー3回受賞。 脚本担当の映画に「犬と私の10の約束」(2008年、田中麗奈主演)、「ジャッジ!」(14年、妻夫木聡・北川景子主演)、「一度死んでみた」(20年、広瀬すず主演)ほか。小説『おとうさんは同級生』、乃木坂46などのMV制作など、幅広い分野で活躍。12年「日経ビジネスオンライン」の連載「澤本嘉光の『偉人×異人』対談」で、星野源、細野晴臣、細田守、佐渡島庸平、小山薫堂、糸井重里と対談。

川村:稀な2人ですね。

澤本:僕、試写室で「百花」を拝見したとき、まさに川村さんが佐藤さんと作られた短編映画を思い出していました。タイトルが長くて、ここで正確に言えないのですが、「あの短編を思い出したよ」と、川村さんに伝えることが川村さんにとって本意か不本意か分からなかったのですが、いま、言ってもいいということが分かりました。

川村:僕は4年前に「どちらを選んだのかはわからないが、どちらかを選んだことははっきりしている」(のちに「どちらを」に改題)という短編映画を、佐藤雅彦さんや「百花」の脚本を書いてくれた平瀬謙太朗くんたちと一緒に撮って、カンヌ国際映画祭短編コンペティション部門にノミネートされたんですね。応募総数3943本からの8本で、日本作品では唯一。それが僕の初監督作品で、そのときに、もしかしたら物語と手法が混じり合ったこの作り方は、海外でも面白がってもらえるのかな、と思ったんです。

「考えさせない」「選択させない」映画が増えた

 それは「百花」でこだわったワンシーン・ワンカットの手法ですか。

映画「百花」より (c)2022「百花」製作委員会
映画「百花」より (c)2022「百花」製作委員会

川村:ワンシーン・ワンカットもそうですが、それに付随する「人間の脳の働きを映像化する」という表現方法です。「百花」で共同脚本を務めてくれた平瀬謙太朗くんは、佐藤雅彦さんのお弟子さんなのですが、平瀬くんと話したときに、いろいろな気付きがあったんです。

 例えばいま、僕はオフィスで澤本さんと話していますが、このシーン、つまり実人生はカットが割られることなく、ずっと連続しています。けれども同時に僕は今、今朝食べたバナナのことを思い出したりもしている。人の脳って、でたらめというか、いろいろな記憶が飛び込んできている。そんな人間の脳の働き方を、ワンシーン・ワンカットとインサートという映画的な手法で表現できるんじゃないか、って思ったんです。

澤本:「どちらを」では、黒木華さんが演じるシングルマザーがスーパーで選んだタラコが、安いやつか、北海道産のブランドものだったのか、から始まって、息子との旅でどの道を通ったのか、とか、息子は父親に会ったのか、とか、2択、2択、2択が続いていく。それらの話を、基本ワンシーン・ワンカットでつないで、見ている人が判断をしなきゃいけない作りにしている。観客が「自分で選択する」ということを、絵も含めてやられているのかな、と思って見ていたんですけど。

川村:おっしゃる通りです。対談の第2回でお話したように、昨今の映像は「離脱」を避けるために、観客に「このアップの顔を見てください」「こう感動してください」と、指示を具体的に出すものが多くなってきている。

澤本:見る方が物語を考える、という作り方を否定する流れに行っていますよね。

川村:でも、人間にとって一番豊かなことって、自分で物語や、それに根差す感情を選択したり発見したりしていくことじゃないですか。映画館だと、よりそういう楽しみ方を自分のものにして、さらに家に余韻を持って帰ることができる。

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