自分がプロデューサーだったら止めさせたい

澤本:今の一般的な映画業界の風潮は分からないですけど、映画も寄りやカット割りがいっぱいあって、音楽をばんばん当てるのが普通というか、そうしないといけない感があるんですか。

川村:そうですね。スタンダードだと思います。僕自身も作品によっては積極的にそういう手法で作りますし。

 その映画やアニメを見ている人たちが、どこを気持ちよく思うのか、という点は大事なので、寄りや音楽多用が悪いとは思わないです。ただ今回、自分で実写の監督をやるとなったときに、まず思ったのは、自分がプロデューサーだったら、監督に言われると困る作り方をすることでユニークなエンターテインメントを作ろう、ということでした。

澤本:僕がプロデューサーで、監督から「ワンシーン・ワンカットでやりたい」と言われたら……確かに嫌ですね(笑)。

川村:原作の「百花」は、僕のおばあちゃんが実際に認知症になった体験から書いた小説なのですが、おばあちゃんとしゃべっていると、3分間ぐらいの間で、ちゃんとしている時間と、何もかも忘れちゃう時間とが行きつ戻りつする。その様子が、天気が晴れたり曇ったりするみたいな感じなんです。その様はずっと見ていられるというか。映画では原田美枝子さんに認知症の母親を演じてもらったわけですが、ワンシーン・ワンカットだと、その天気のような様を観客がワンカットの中で目撃する感じを緊張感とともに出していけるんです。

映画「百花」より 
映画「百花」より 

澤本:あと、川村くんの映画では珍しいと思うんですけど、劇伴の音楽がないですね。

川村:今回、劇中で実際に鳴っている音楽と、それが記憶の中で瓦解して新しいメロディになっていくという表現以外の音楽を使っていません。たぶん、別の場面で別の監督から「劇伴は使いません」なんて言われたら、僕だって「それはダメだ」と言うよな、と(笑)。でも、劇伴を使わないことによって、ピアノの先生である原田さんが弾くトロイメライと、彼女の記憶の中で瓦解して再構築されるその曲が、音楽として強く印象付けられる。その勝算がありました。

 気分ではなく、勝算、ですか。

川村:勝算があるから、劇伴なしの手法を取れたんです。

澤本:川村くんが手がけた映画で言うと、「バクマン。」(2015年、大根仁監督)の音楽は全部サカナクションに任せましたよね。僕らからすると、サカナクションという、それまで映画の音楽をやったことのないアーティストに全部任せるのか、そういうことができるのか、っていう驚きがありましたが、そこで使われた「新宝島」という曲は、サカナクションの最高のヒットの一つになって。

川村:サカナクションの山口一郎という、本当に才能があるミュージシャンと映画を一緒に作ると、新しい感覚の映画が生まれるのでは、と思っていました。

澤本:僕はサカナクションが大好きで、よくライブにも行くんですが、そういうライブに川村くんも必ずいるんですよね。

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