(前回から読む)

川村 元気さん(以下、川村):この3、4年で何が変わったのかなと思ったときに、映画の見られ方が変わってしまったことをひしと感じます。家でテレビを見るときは、みんな、だいたいスマホ片手でしょう。映画の配信を家で見るときもLINEの返信をしょっちゅうチェックして、人によっては早回しして見るスタイルになる。とにかく待ってもらえない、集中してもらえなくなっている。
澤本 嘉光さん(以下、澤本):「離脱」が問題視されていますよね。
「離脱」?
映像コンテンツを支配する「離脱」
川村:つまり、チャンネルを変えられるな、画面から目を離させるな、ということなんですけど。配信ドラマ作りなどではよく「離脱されないように」という会話があります。
澤本:「離脱」と、あと「興味曲線」という言葉が、広告でも盛んに言われています。デジタル時代になって、コンテンツ上のストーリーが展開する中で、「ここで視聴者の興味が、がっと上がった」「ここで、がっと落ちた」というようなデータが曲線グラフで可視化されて、その落ち込みをいかになくすか、というのが制作者の任務みたいに言われているんですよ。
川村:だから、昨今の映画やドラマはカット割りが細かく、音楽が鳴りっぱなしで、台詞も全部説明するものにして、ということをたびたび要求されたりする。
澤本:曲線を上げるためには、俳優のアップを使って音楽を付ける、引きで無音だと、それが落ちる、なんてことが数字上では言われていますから。川村さんは、実写の長編や短編、アニメ、ドラマと、いろいろなアウトプットで映像を作っていますが、そこはどう考えていますか。
川村:世の中がそういう状況になって、逆に映画館のアドバンテージが際立ってきたと考えています。だって、映画館にはスマホもノートパソコンもない。つまり絶対にスクリーンに集中してもらえる。いまどき、そんな2時間がありますか。
澤本:僕らの生きている世界で、スマホを見ない2時間って、もはや考えられないぐらいですが、映画館ではそれが起きている。すごいことですね。
川村:一周回って、これは新しい体験だと思ったんですよ。
澤本:9月公開の映画「百花」は、川村さんが初めて原作・脚本・監督の三役を務めた実写映画ですが、この作品ではカット割りをしないワンシーン・ワンカットで撮影されていますね。
川村:離脱をさせないために、カットを割って、俳優のアップを多用しろと言われる時代に、「百花」では、俳優の姿をワンカットで追い続けると決めた。映画館のなかで集中してワンシーン・ワンカットを見ていると、観客は想像し始めるんです。今、菅田将暉はどういう顔をしているんだろう、原田美枝子は一体何を見ているんだろう、と考えていくうちに、だんだんそのキャラクターに没入していく。その体験って、いまや映画館でしかできない。

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