川村:対談の最終回に少しだけネタバレをすると、この映画って最後の最後だけ、カットバック(シーンの切り返し、カットを交互につなぐこと)をするんです。
ワンシーン・ワンカットの手法が、最後で一度だけくずれるんですね。
川村:あとアップがあるんです。
ずっと引きだったカメラが、最後に寄る。
川村:ワンシーン・ワンカットで引きを通してきたから、最後にアップが来て、見ている人が結末にぐっと引き寄せられる。という作り方をしているんです。
澤本:川村さんがご自分の映画について、一貫してお話をされているのは、ロジックの積み重ねがベースにあるということで、今の話もそうだと思うのですが、一方で、昨今はある意味データが最適だと指し示す法則にのっとって映像が作られる方向に、流れが行っています。その、データとロジックって混同されがちなんですが、まったく別の話だと僕は思っていまして。

川村:データ分析だけで広告を作ったら、結局、商品名連呼が一番効率的だ、みたいな話になっていきそうですね。
そうなると、ITによる進化どころか、むしろ退化ですよね。
見せることはできても、心が動くかは分からない
澤本:データに基づいて構築されていくCMが悪いとは思っていないんですが、例えば商品名を連呼されたから買うかっていうと、やっぱり買わないわけですよ。好きな俳優の顔が、次々と出てくるから見ちゃったけど、内容は覚えてない、というのもたくさんあるし。「見る」と「心が動く」は違うものなので、見せることはできても、心を動かせるかどうかは分かりません。
人がものを買う理由は、連呼されたからではなくて、そのCMが気になったから。もっと言うと、好きになったから。そこを間違えると、まずいと思うんです。
川村:ちょっと横道になりますが、連呼型CMを大成功させたのが、僕ら2人の憧れの人、佐藤雅彦さんでしたね。
澤本:佐藤さんの場合は、その連呼をどのタイミングでやるか、どのトーンでやるか、どの程度やるか、という、少しでもずれてはいけないような細かい戦略的な設定があった。
川村:最近はデータ至上で、「属人的な判断を排する」考え方で作られたものも多いですが、佐藤さんは属人的な判断を駆使して、商品を大ヒットさせていました。
モルツ、モルツ♪や、ポリンキー、ポリンキー♪は、我々世代の脳にまんまと植え付けられていて、一生忘れない気がします。
川村:例えば(澤本さんの)ソフトバンクの白戸家シリーズにしても、事前にデータを取って、〇秒で何をして、というフレームでは、犬のお父さんなんてものは出てこないですよね。
澤本:出てくる余地がないですし、面白くなりようがないですよ。仮に全体調査を取ったデータ上の数字は少し低くても、ある個人がむちゃむちゃ好きな内容の方が、結果、記憶に残る。そして、買う。という経験値は自分の中には根強くありますね。広さと深さの問題、というか。
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