日本社会って、年の差とか年次とかをすごく気にするじゃないですか。その点で言うと澤本さんは先輩じゃないですか。年下の意見に聞く耳を持つことって、澤本さんはできるのですか。
澤本:僕は川村くん――というか川村さんというか、どっちで呼んでいいか、いま、迷っていますが、川村さんを年下と思ったことがあんまりないですね。そもそも、ほかの人に対しても、年下とか年上とか、あんまり思わない。あ、でも年上は思うかもしれない。ナカテツさんは怖いですからね。
川村:怖いですよ(笑)。
澤本:川村くんのすごいところは、意見を僕だけでなく、細田(守)さんにも、新海(誠)さんにも、ナカテツさんにも言っているところですよ。
川村:僕が映画「告白」を企画したときに、中島哲也さんが監督をされたのですが、撮影がいよいよ始まるぞ、というときに、渋谷の安い居酒屋で一緒に飲んだんですよ。中島さんは「告白」の前に「パコと魔法の絵本」(08年)という映画を撮っていらして。
澤本:映画監督としては「下妻物語」(04年)、「嫌われ松子の一生」(06年)、「パコと魔法の絵本」と来て、そして「告白」ですね。
川村:CM業界では泣く子も黙る有名監督で、いくつもの名作CMを手がけておられていました。ただ、僕は映画監督としての中島さんに向き合っていたので、「『パコ~』はここが好きではなかった、あそこが面白くなかった」と、率直に話したんです。そうしたら、めちゃくちゃ怒られました。
澤本:それ、川村くんも酔ってたでしょう。
川村:酔っ払っていました。
澤本:そんな怖いこと、僕は言えないですよ。

川村:酔っ払っていたし、20代の若気の至りといいますか……。中島哲也さん、怒ると怖いんですよ。目もギロリとしていて、声もでかい。ああ、こんなに怒るんだ、とさすがにびびっていたら、次の日に「昨日はちょっと言い過ぎた」みたいな電話をいただきました。怖いけど、そういう人なんです。
澤本:人の意見を聞けるか、聞けないかは、何かを作る人にとって、大きいですよね。
川村:全部聞いて、全部言いなりになっちゃう人はだめですけど、自分の栄養にするものと捨てるものを仕分けできるセンスがあれば、なるべく聞いた方がいいと思います。細田さんも新海さんも、その意味では聞く方ですよね。
物語を面白く伝えることだけ考えている
川村さんのお仕事を理解する前提で、例えばウィキペディアなどを見ますと「企画」「企画・プロデュース」「プロデューサー」と、作品ごとに役割の表記が違うのですが、あれは、どういうことなのでしょうか。
川村:その肩書の差は何か、という話ですか?
そうですね。
川村:僕は肩書でものを考えていないです。映画を作る、小説を書く、絵本も描いたりする。映画ではアニメも実写も両方企画するし、脚本や監督をやるときもある。
一貫して行っているのは「ストーリーテリング」、つまり物語を作り、それを人にどう面白がってもらえるか、という仕事なのだと思っています。
そこに外付けの肩書や役目は関係ない、と。
川村:まず物語があり、それが映画向きか、アニメ向きか、もしかしたら小説や絵本に向いているのかもしれない。とにかく物語をいちばん面白く伝えられる形で表現している、という感覚なんです。
僕の仕事場である「STORY inc.」(映像作品の企画・製作会社、17年設立)の会議室には、アーティストの内田洋一朗さんによる「STORY」と名付けられたグラフィティアートを置いています。そこには「生み出した物語が、誰かとつながって、その人の物語になっていく」という英語の言葉が入っています。それこそが僕の仕事だと思っています。
そのアウトプットには、広告もありますか。
川村:僕が広告を作る場合は、その商品やサービスの「物語」から考え始めます。ティファニーとゼクシィと取り組んだ「ティファニー・ブルー」では、結婚を控える市井の恋人たちのラブストーリーを書きました。BTSを7人兄弟に見立てた「ロッテ・キシリトールガム」、歴代の「ポケモン」とBUMP OF CHICKENがコラボレーションした「GOTCHA!」など、内容はそれぞれですが、基本的にはすべて物語を先に書いています。
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