
澤本 嘉光さん(以下、澤本):川村さんと僕は、相当前からの付き合いがありまして。
川村 元気さん(以下、川村):かなり前からですよね。最初の記憶が、細田守監督と澤本さんと、新富町の焼鳥屋で酔っ払っているシーン。
澤本:そうでした。とにかくすごく前ですね。
川村:あ、でも、新富町の前に澤本さんが書かれた映画「ジャッジ!」の脚本に僕が、好き勝手に言わせていただくという会が、中目黒でありましたね。
澤本:あった、あった。好き勝手にというより、意見をうかがう機会。
川村:澤本さんに「どう思う?」と問われ、「ここはこういうふうにしたらいいんじゃないですかね」みたいなブレストを、一人の友人として一緒にしました。
川村さんは、そういうときは率直に意見をおっしゃっていますか。
川村:誰に対しても、思ったことを正直に言うようにしています。ただそれを参考にするかどうかは、書き手次第だということは付け加えつつ。書くということは、その人にしか見えていない景色や想いが描かれていないと意味がない。ですから、澤本さんが脚本を書くなら、澤本さんしか書けないものを、と思いました。澤本さんは広告の制作者で、脚本も広告業界にまつわる話だったから、「じゃあ、映画でもテレビでもない、広告でしかない醍醐味って何ですか?」という問いを投げかけました。
澤本:僕の脚本がめちゃめちゃ長くなっていて、余計なところがいっぱいあるのは分かるんだけど、映画としてある時間内に収めるときに、どこを切っていいか。それが分からなくなっていたんですよ。それも含めて、どうしたらいいんだろう? というところが多々あり、川村さんにいろいろ意見を言ってもらって。
「広告って邪魔者なんですよ」
率直な意見って、禍根になったりしないですか。私自身は、「忌憚のないご意見を」と言われて、思ったことを言ったら、二度とお声がかからなかった、という経験をしてきました。
澤本:「この人はすごい」と思う人に持ち回りで聞いていたので、禍根どころか、ありがたかったですよ。
ということは、私の場合は「この人はすごい」と思われていなかった、ということですかね。
川村:僕は自分の仕事が「医者」みたいなものだと思っているところがあります。脚本や編集を見たときに、ここが悪いから、あそこを治せばよくなるかも……と仮説を立てる。例えば「首が痛い」という症状が出ると、人はお医者さんに首を診てもらいますよね。周囲からも首についての体験談を聞いたりする。でも僕は、これは腰が悪くて首に来ているのではないか、と考える。そういう係なんですね。
まさしくセカンドオピニオンですね。
澤本:それで僕は川村くんに、首じゃなくて腰ですよ、と言ってもらって。
川村:映画業界にいると、映画の表現としてのアドバンテージが何か、というのに気付かなくなりがちです。それと同じように、広告業界にいると、広告のアドバンテージは何なのか、よく見えなくなってしまうところがあるのではないかと思いました。それで「広告って何でしょうか?」と問いかけていたら、日本酒を飲んで結構べろべろになっていた澤本さんが、「広告って邪魔者なんですよ」と言い始めて。
澤本:そんなこと、言ってましたか?
川村:YouTubeでもテレビでも番組をさくさく見たいのに、そこに入ってくる邪魔者が広告だ、と。ただ、自分が見るつもりがないものだったけれど、偶然出合っちゃったみたいなこともあり、それに惹かれることがある。映画とかドラマとかは、これを見たいと思って見にいくものですが、強制的に出合わされたもので心が動く。それって広告の面白さなんですよ、みたいなことを言っておられましたね。
澤本:言ってましたか、僕?
川村:べろべろだったから、覚えてないと思いますけど(笑)。
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