田中みな実さん(以下、田中):今回は、広告のプロフェッショナルである澤本さんにぜひうかがいたいことがあります。
澤本嘉光さん(以下、澤本):何でしょうか。
田中:最近ちょこちょこCMに出させていただいて思うのが、的確かつインパクトのあるCMを作るって本当に難しいな、と。TBSに入社した2009年に初めて澤本さんとお会いした時、後年、自分がCMに出させていただくようなことがあるなんて想像もし得なかったし、当時、澤本さんから、そんなに熱心に広告のことは聞かなかったので、今回はぜひ。

澤本:どういうところに難しさを感じているんですか。
田中:関わる人が多過ぎて連携が難しいのではないかと感じるんです。すべての人の意見を尊重し、その思いを反映するのは不可能に近いじゃないですか。買ってくださる方に届けるCMを作るのがもちろん大前提にあったうえで。
クライアントの意向はどのくらいの重みが?
田中さんがおっしゃるすべての人、とはどんな人たちなのでしょうか。
田中:クライアントがいて、その中でも製品を作った方の想い、営業や販売を担当する方の想い、クリエーティブの考え、映像を撮る方の意向、代理店の立場、演じるわれわれ……と、たくさんの人の想いがあるわけで。
その中でそれぞれが妥協をしたり折り合いをつけたりしながら、1本のCMが完成する。クリエーターの澤本さんにとって、クライアントの意向というのは、どのくらいの比重なんでしょう? ご自身が作りたいもの、作品ってあるんじゃないですか?
澤本:そもそも広告って、クライアントがいないと作れないじゃないですか。
その点で、クリエーターの作るCMはアートではないけど、表現ではあり、と絶妙に難しいバランスがありますね。
澤本:はい。クリエーターというとかっこいいですが、僕たちは表現制作者ではあるけれどアーティストではない。芸術という言葉はあまり使うべきではないですが、広告は目的芸術です。自分たちの商品を売りたいというクライアントの意向は、もちろん一番大事な目標です。
その目標のためにどのような戦略を立てて、その戦略のためにどのようなお客さんとの実際の接点となる表現をつくって、どのような印象を全体のストーリーとして残していけるか。そして、結果、目的をどこまで高く完遂できるか。それは仕事であると同時に、ゲームでもあるわけです。これ、クライアントのお金で遊んでいるということではないので、誤解されないといいのですが。
近頃は仕事にゲームの要素を入れた方が成功確率が高くなるという「ゲーミフィケーション」理論も広まっているので、誤解されないと思います。
澤本:それでいうと、ゲームでは勝ちたいわけですよ。ですから、クリエーターとしては、クライアントのためを思っているというのとほぼニアリーイコールで、今回のミッションで勝ちたいという気持ちはすごく強いんです。そのために、一番役に立つ表現を制作したい。
田中:CMはとにかく関わる人数が多いと言いましたが、たとえば意見がある人が10人いたとして、その全員の小さな要望を盛り込んだら、てんこ盛りの、わけの分からないCMになりかねない。澤本さんは、そのバランスはどう取っていらっしゃいます?
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