田中:私は09年の入社で、制作時はまだ年度が明けてなかったから、まだ学生のようなもので。アナウンサーとして特に目立った仕事もしていなかったので、なぜ私なんだろう、と。

 「とにかく、どこそこのスタジオまで行ってくれ」と上司に言われ、内容もよく分からないまま撮影場所の倉庫に行って、そこで初めて澤本さんの制作チームとお会いしました。

14年も前に遡るんですね。田中さんがTBSをお辞めになって、MCや俳優など多方面で活躍するようになってからのお知り合いかと思っていました。

田中:私がまだ「サンジャポ(サンデージャポン)」に出る前の、ど新人のころの話です。しかもアナウンサー名鑑の写真って、見るからに、ただの女子大生。そんな私をピックアップしていただいたことが驚きでした。

澤本さんはどういうふうに、ピンと来たのですか。

田中:私も聞きたい。どうしてだったんですか。

澤本:何か「役」ができそうな感じがしたというか。すごく、人と違って前向きな雰囲気があったというか。

澤本嘉光(さわもと・よしみつ)
澤本嘉光(さわもと・よしみつ)
電通グループ エグゼクティブ・クリエーティブ・ディレクター、CMプランナー、脚本家。 1966年、長崎市生まれ。90年、東京大学文学部国文学科卒業後、電通に入社。ソフトバンク「白戸家」シリーズをはじめ、トヨタ自動車「ReBORN」ドラえもん編、資生堂、東京ガス、サントリー、家庭教師のトライなど、時代を代表する国民的CMキャンペーンを多数手がける。クリエイター・オブ・ザ・イヤー3回受賞。脚本担当の映画に「犬と私の10の約束」(2008年、田中麗奈主演)、「ジャッジ!」(14年、妻夫木聡・北川景子主演)、「一度死んでみた」(20年、広瀬すず主演)ほか。小説『おとうさんは同級生』、乃木坂46などのMV制作など、幅広い分野で活躍。12年「日経ビジネスオンライン」の連載「澤本嘉光の『偉人×異人』対談」で、星野源、細野晴臣、細田守、佐渡島庸平、小山薫堂、糸井重里と対談

田中:前向きな雰囲気ありました?私、あのころも今も、自分に自信がないんです。メディアに出ているときはそう見せているだけで、実際のところはそうではなくて。ただ、澤本さんは「僕は自信がないです」という空気を体全体で表現されていて、それは、どういう戦略?

澤本:はい、僕はずっと自信ないです。

もうちょっと胸を張って

田中:これだけ多くのヒットCMを世に出しているのに、ずっと変わらず自信がないってどうしてなんでしょう。お会いするたびに、「もうちょっと胸を張ってください!」って言っている気がします。

澤本:前に会ったときは、顔にしわが目立ってきたから、クリームとかエステとかをやった方がいいですよ、と心配されました。

田中:そういう美容の指摘もしましたね。私、巷(ちまた)で何て呼ばれているか知っています?「美のカリスマ」ですよっ(笑)。

澤本さん、あなたはただの果報者じゃないですか、という話ですね。

田中:大先輩でいらっしゃいますが、何でも言いやすい空気感で接してくださるので、ついはっきり言いすぎてしまいます。TBSのキャンペーンのときから、変わりませんよね。新人の私に対しても本当に丁寧で、腰が低く、誰に対しても同じスタンスで、そういう方はなかなかいらっしゃらないんじゃないかな、と思っています。

澤本:いやいや。

田中:本質的に、そういう方だという前提で、お酒を飲むとだいぶ変わるの、自覚されています?

澤本:えっ(どきっ)。

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