例えば、「顧客満足度を高めるために、真心を込めた接客をしてください」といった指示では、部下はどう行動すればいいのか分かりづらいですよね。部下は自分なりに丁寧な接客をしていると思っていたとしても、実際にはお辞儀の角度が浅かったり時間が短かったりして、丁寧さに欠けた印象を与えている可能性もある。そんなときは、「お辞儀の角度が30度くらいの敬礼になっていて、とてもいいね。さらに、心の中で5秒数えてから頭を上げるようにすると、より丁寧さが伝わるよ」などと、改善することで「より良くなる」行動を示します。「いい行動」を一つひとつ積み重ね、好結果につながるよう、助言しましょう。

「スモールゴール」の達成感が自発的な行動を促す

 人は自分の行動によって達成感を得られると、その達成感を再び味わいたいという思いから、自発的に行動するようになります。逆に最初の行動でつまずいてしまうと、もう苦い経験はしたくないと感じ、自発的な行動を避けるようになってしまいます。

 部下やメンバーに仕事を任せるときはまず、相手が必ず成し遂げられる業務を依頼しましょう。まずは小さな目標で、成功体験を得ることが大切です。その成功体験の積み重ねが、大きな目標に向かって行動する力になります。行動科学マネジメントでは、この必ず達成できる小さな目標を「スモールゴール」と呼びます。

 例えば、他部門から異動してきたばかりの部下に、いきなりプレゼンテーションを任せるのはハードルが高すぎるでしょう。そこで最初は資料作成のための情報収集をお願いしたり、プレゼンに同席してもらったりするといいでしょう。

 スモールゴールの考え方は、自分が何か新しいことを始めようとするときにも役立ちます。普段はあまり運動をする習慣のない人がランニングを始めようと思ったとき、最初から10キロ走るのはかなり難しいでしょう。まずは1キロ歩けたら、3キロ歩いてみる。3キロ歩けたら、5キロ歩いてみる。5キロ歩けたら1キロ走ってみる、というように段階的にスモールゴールをクリアするようにしていくと、達成感を味わいながら長距離を走れるようになるはずです。

仕事ができる上司ほど「自分基準」を手放そう

 部下の仕事を評価するとき、部下のできていない面に目が向くことがあります。仕事ができるリーダーほど、「どうしてこんなこともできないのだろう」と不満に感じがちです。それは、リーダー自身の経験や能力が判断基準になっていることに原因がある。実績を評価され責任ある立場に抜てきされた人間が、自分を基準に他者を評価すれば、「できていない」と感じてしまうのは当然のことだと言えます。

 部下の仕事に対して不満を感じるようなときには、相手の欠点ばかりが目に付くようにもなりますよね。そんなときは自分の判断基準を一旦捨てて、相手のいい面、できている面を見つけるようにしてみてください。そのときにも、「行動」に注目することが大切です。

 部下の長所やできている面を見つけて評価していくようにすると、部下は評価されたことに自信を付けていきます。自分の仕事に自信が持てると、難しい仕事にチャレンジする動機付けにもなるでしょう。

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