プライシングには「目的設定」が非常に重要である。私たちが価格に対するアドバイスやコンサルティングを求められる際、最も困る質問がある。それは「今、私たちのサービスの価格は適切ですか?」「今の価格をどう変えれば最適になりますか?」といったものだ。というのも、適切な価格は事業のありたい姿によって変わるからだ。当たり前のようだが「売り上げが最大化する価格」と「顧客数が最大化する価格」は異なる(下の図)。

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 では、「売り上げが最大化する価格」と「顧客数が最大化する価格」のどちらを選択するのが正解だろうか。もちろんどちらが正解かは、事業戦略上「売り上げ」と「顧客数」のどちらのプライオリティーが高いかで変わるし、プライシングの意思決定に関係する変数は多岐にわたる(利益率、販売チャネル、製品ポートフォリオごとの販売戦略……)。

 無数にある選択肢の中から、事業のありたい姿に応じた複数の条件や制約を考慮し、1つの価格を絞り込む、これがプライシングという行為だ。もちろんクライアント企業の事業のありたい姿から、価格を変える(決める)目的を解きほぐし、正しい「目的設定」をし、それを達成することができる価格を導き出すことが私の仕事であるのだが。

 長い前置きとなったが、ここ2~3年「ダイナミックプライシングを導入したい」といった声をよく聞く。だがダイナミックプライシングも「目的設定」が明確でないと成功することはない。今回はそれについて解説しようと思う。

高頻度で価格変更

 そもそも、ダイナミックプライシングとは、高頻度で価格を変更する仕組みを指す。言葉を分解すると、「ダイナミック」とは「動的」と訳され、何かが時間とともに変動する状態を指す。一方、「プライシング」とは、商品やサービスの値付けのことを指し、マーケティングでは重要とされる「4P」の1つだ。

 日常生活で私たちは多くの場合、商品・サービスの価格は発売当初から一定であるもの(一定価格制)を享受している。一方で、ダイナミックプライシングでは、ITやAIなどのツールを用い、高頻度での価格変更を実現させている。

 ダイナミックプライシングの概念を理解するには、そもそもプライシングの基本を知る必要がある(プライシングの基本とダイナミックプライシングの考え方については、やや専門的な内容となるため、要点だけ知りたい方は太字の部分だけ読めば理解できるように構成している)。

 商品・サービスの売り上げは、「価格」と「販売量」の2つが組み合わさって決定される(売り上げ曲線)のに対し、販売量は価格に応じて、反比例〝的〟に決まる(価格曲線)。価格曲線に価格を掛け合わせた「売り上げ曲線」の最大化の実現がプライシングの基本だ。

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