顧客調査の重要性

 2つの事例とともに、当社でのシミュレーションを見ていただいたが、「顧客が離れない値上げ」を行うには調査は必須だ。長年の事業運営で得られた感覚や、顧客へのヒアリングで値ごろ感を把握している場合、あえて調査をしなくてもいいのではないか、そういう声もあるだろう。しかしこの仕事をしていると、その値ごろ感が的中する企業を見かける一方で、それが惨事を生む事例も同様に見かける。前述の通り、価格1%の上昇が営業利益23.2%につながると考えると、多少のリソースを割いて調査をすることは決して無駄ではないのではないだろうか。そこで、以下では顧客数推計・売り上げ予測で行った調査方法について解説する。

 その前に、算出を行うに当たっての前提知識となる、PSM分析について触れておこう。PSM分析は、1976年にオランダの経済学者Van Westendorpによって開発されたことから「Van Westendorpモデル」と呼ばれることもある分析手法だ。

 プライシングの調査において、最も一般的な方法は、ターゲットに製品を買いたいと思う金額を聞くことで、これを直接質問法と呼ぶ。この方法は簡単に実行できる一方、実際の支払い意欲よりも低い価格が回答として集まる傾向にある。できるだけ安く買いたいという潜在的な心理が働くためだ。

 PSM分析では、そういったターゲットのバイアスを最小限にとどめられるよう、価格に対して間接的な質問を、複数聞いていく。

 一般的なPSM分析の手順は、次の2つのステップで行われる。ここであえて「一般的」というワードを使っているということを覚えておいてほしい。

  1. アンケート調査
  2. 可視化

 1のアンケート調査では、以下の4つの質問を実購買者や潜在顧客など、適切な調査対象を選定して行う。

PSM分析のアンケート項目

  • その製品・サービスについて、あなたが高いと感じ始める金額はいくらくらいですか?
  • その製品・サービスについて、あなたが安いと感じ始める金額はいくらくらいですか?
  • その製品・サービスについて、あなたがこれ以上高いと検討に乗らない金額はいくらくらいですか?
  • その製品・サービスについて、あなたがこれ以上安いと品質や効果に不安を感じる金額はいくらくらいですか?

 次に、価格調査の結果を集計し、グラフに回答者を累積してプロットする。X軸が価格を、Y軸が当てはまる顧客の割合を表す。価格が上がると、「安過ぎて品質が低い」「安く感じる」と思う顧客が減り、「高過ぎて検討に乗らない」「高く感じる」と思う顧客が増える。その上で、価格設定の参考となる4つの交点を見て価格の意思決定を行う。

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  • 最適価格
    最も価格拒否感がないとみられる価格
  • 妥協価格
    高い・安いの評価が分かれる価格
  • 上限価格
    これ以上高くなると、消費者の購入されなくなるとみられる価格
  • 下限価格
    これ以上安くなると、消費者が「品質が悪いのではないかと不安になる」と感じる価格

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