値上げをどのように実施するのか。企業の対応によって、顧客の反応は大きく分かれてしまう。値上げによって顧客の反感を買う企業もあれば、他に先駆けて値上げに踏み切りながらも、工夫を凝らして単価を確実に上げている企業もある。

 メーカーが取るべき打ち手を考えていく前に、まずバリューチェーン上の悩みを整理してみよう。すると、メーカーの抱えている問題は、原材料の高騰と卸や小売り、消費者からの値上げに対する抵抗の板挟みにあることが分かる。そのため、「原材料の高騰などによる仕入れ価格の上昇にどう対応するか」と「卸、小売り、消費者に対し、どのように納得感のある説明をするか」の2つが課題となってくる。

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容量を変えたコカ・コーラ

 このような状況を乗り切るための1つの解として、顧客メリットに基づき使用量(もしくは回数など)当たりの単価を上げるといった手法が存在する。その2つの事例を紹介する。

 1つ目は「コカ・コーラ」だ。多くの消費者にとってなじみ深い500ミリリットルのボトルは2021年3月29日を境にほとんどのスーパーで販売されなくなった。その代わりに350ミリリットルと700ミリリットルという2つのサイズが販売されるようになった。

 新サイズの導入により、売上高は従来の約1.3倍に拡大すると試算されたという。なぜ新サイズの導入で売上高が増えるのか。新サイズ導入当時の500ミリリットルボトルのメーカー希望小売価格は140円だったのに対し、350ミリリットルの新ボトルは120円である。つまり1ミリリットル当たりの価格は500ミリリットルボトルが0.28円なのに対し、350ミリリットルボトルでは0.34円となり、単価は約1.2倍になっている。

 2つ目の事例は、洗濯用洗剤「アリエール」の「ジェルボール」だ。14年4月にP&Gジャパンが発売したジェルボールは、日本では粉末か液体が支配的であった洗濯洗剤市場において、登場したボール状の商品である。「粉末でもなく、液体でもない第3の洗剤」と位置付けたことで、投入から1年で市場シェアが8%に達する「予測を大きく上回る大ヒット」となり、洗濯1回当たりの単価を引き上げることができた。

 この2つの事例の共通点は、リサーチと分析を通じて顧客メリットに基づいた新たな販売機会・収益機会を発掘したということだ。

 例えばコカ・コーラの事例の場合、リサーチの結果、消費者は外出中や動いている最中であれば1人で500ミリリットルを飲み干せるが、自宅での飲用量は20%ほど少なくなると分かった。そのため、自宅で飲む場合、500ミリリットルでは1人だと飲み切れず、逆に2人だと物足りないという事態が想定された。

 加えて、スーパーで購買されたコーラは家庭での消費が多いこともあり、1人世帯や2人世帯の数が増加している背景も考慮すると、スーパーで販売する主力商品として500ミリリットルでは適さないと考えられた。こうしたリサーチ・分析によって、350ミリリットルと700ミリリットルのボトルが生まれたのだ。

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