相手を容赦なくたたき潰すかと思えば、あり得ないほどの感情移入と優しさを見せる。多くの人にとって理解しがたいイーロン・マスク氏の性質はどのように形成されたのか。異端のリーダーの波乱に満ちた半生を振り返る。
■連載予定(タイトルや回数は変わる可能性があります)
・ツイッター買収問題、マスクの訴訟戦略を立案した「知恵袋」
・理想にばく進するマスク氏 裏で支える「7人のサムライ」
・元テスラCTOストローベル氏が語る「マスクとの関係」
・「マスク氏が優秀人材を魅了できるワケ」、元テスラ電池調達担当が語る
・米国で急増「イーロン・マスク信者」 熱狂×ユーチューブで拡散
・マスクの中に同居「天使」と「悪魔」はいかに生まれたか(今回)
・広がるマスク流リーダーシップ 21世紀のハワード・ヒューズか
「彼には異なる2つの顔がある。基本はいいやつだが、一緒に働きたくはないね」。イーロン・マスク氏を直接知るシリコンバレー関係者の多くは、こう口をそろえる。

実際、同氏のファンや一緒に働く社員、苦楽を共にしてきた経営層を取材してみると、情にほだされて無条件の優しさを見せる側面と、言い訳を一切許さない厳しい経営者の横顔が浮かび上がる。ファンボーイのカリスマ、ガリレオ・ラッセルさんですら、「客観的な立場からイーロンに物が言える今の立場がちょうどいい。テスラやスペースXで働くのはつらそうだ」と肩をすくめる。
異端の経営者「イーロン・マスク」はいかに誕生したのか。これをひもとくカギがこの二面性にある。
自ら打ち明けた「困難」
「私はアスペルガー症候群を持つ最初の司会者だ」。マスク氏は2021年5月に米コメディー番組「サタデー・ナイト・ライブ」に出演し、こう打ち明けて世間を驚かせた。
アスペルガー症候群を持つ人は、相手の表情や口調から発言そのものには含まれていない意図をくみ取る「社会性コミュニケーション」や、相手の立場に立って物事を見る「社会性イマジネーション」に難があるとされる。13年に米精神医学会が実施した改訂で、アスペルガー症候群というカテゴリーはなくなり従来の自閉症などと併せて「自閉スペクトラム症」に統一された。一般には軽度で社会生活を営めないほどではないとされている。
22年4月に出場したスピーチイベント「TED」でマスク氏は、この件について問われると、幼少期の記憶をこう振り返った。「私には、相手の言ったことを額面通りに受け取る傾向があった。でも後で、その認識が間違っていたと分かる。みんなは、必ずしも伝えたいことをそのまま口にしているわけではないのだと理解するまで、しばらくかかった」
マスク氏は1971年、南アフリカ北東部のプレトリアで英国人の父エロールさん、カナダ人の母メイさんの間に生まれた。下に1歳下の弟キンバル氏と、2歳下の妹トスカさんがいる。
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