ホンダが開発を進める電動垂直離着陸機(eVTOL、イーブイトール)。この次世代の乗り物「空飛ぶクルマ」の開発に多彩なバックグラウンドを持つ人材が結集している。ただ「ビジネスを生み出す」という難所に挑むのはこれから。人型二足歩行ロボット「ASIMO(アシモ)」や、パーソナルモビリティーの「UNI-CUB(ユニカブ)」は、事業として成立しないまま開発の幕を下ろした。モノをつくったところで立ち止まらず、市場を創造することでこそ真のイノベーターになれる。

■連載ラインアップ
(1)ホンダの決断 ソニーとEV連合、激動の時代へ変革急ぐ
(2)ホンダ三部社長、ソニーとのEV新会社「テスラと十分に戦える」
(3)孤高では生き抜けないEV大競争 ホンダが選んだ「現実主義」
(4)もがくホンダ技術陣、EV開発でぶつかった「思い込み」「経験」の壁
(5)電動二輪車でも反撃へ 王者ホンダ、牙城死守へ新たな「生態系」
(6)「F1より難しい」 ホンダが「空飛ぶクルマ」で目指す真の革新者
(7)ホンダ、盟友GMがつないだLGとの縁 北米でEV電池を合弁生産
(8)稼げなくなったホンダの四輪車 拡大戦略のツケを払った八郷改革
(9)宗一郎がホンダに残した道しるべ 車ではなく、未来をつくる

 「回します!」

 「風入れます!」

 技術者の合図とともに「送風中」のライトがともった。巨大な部屋の中央に置かれた直径1メートルほどのファンに向けて、トンネルのような開口部から強風が流れ込む。

栃木県の本田技術研究所にある風洞施設。過去、ホンダジェットの開発でもこの場所が使われた(写真:吉成大輔)
栃木県の本田技術研究所にある風洞施設。過去、ホンダジェットの開発でもこの場所が使われた(写真:吉成大輔)

 部屋の外に待機する技術者たちは、ホワイトボードに細かく書き込まれた計算式やモニターに映される数値を代わる代わる眺め、窓越しにファンの様子をうかがう。

 栃木県芳賀町の本田技術研究所の敷地内にある風洞施設。1990年代に四輪車の空力試験を行うために建てられたこの場所で、いま、「空飛ぶクルマ」の開発が進められている。

風洞試験を見つめる技術者たち。自前の試験設備を持つことは開発の上で有利だ(写真:吉成大輔)
風洞試験を見つめる技術者たち。自前の試験設備を持つことは開発の上で有利だ(写真:吉成大輔)

 置かれているファンは、ホンダが開発する「Honda eVTOL」の機体尾部に付く推進用ローターの試作品だ。風を受けた際の部品の動きや振動を計測し、事前にコンピューター上でシミュレーションしたデータと突き合わせて性能や精度を調べていく。

 eVTOLは公共交通や物流の担い手となる次世代の乗り物として注目が集まっている。その特徴は、滑走路を必要とせず垂直に離着陸できることや、電動で飛ぶこと、自動操縦できること。電動化によって部品点数が減り、操縦士も不要になるため、機体の価格や運航費用が安くなると期待されている。

 トヨタ自動車が出資する米ジョビー・アビエーションや、国内スタートアップのスカイドライブ(愛知県豊田市)など様々なプレーヤーが入り混じり、空飛ぶクルマの開発競争は熱を帯びる。ホンダが参戦を表明したのは2021年9月。三部敏宏氏がホンダ社長に就任して5カ月が過ぎようとしていたころだった。

「ジェット」に続く空の新ビジネス

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