ソニーグループと提携し、電気自動車(EV)を開発・販売する新会社を共同出資で立ち上げるホンダ。「EV新会社はホンダ自身のライバルになっても構わない」――。ホンダの三部敏宏社長は言い切る。異例のタッグで目指すのは、ホンダやソニーという母体に縛られない、独立したEVスタートアップの創造だ。自動車業界を揺さぶる大きなうねりを生き抜くため、ホンダは変化を求めて動き始めた。

■連載ラインアップ
(1)ホンダの決断 ソニーとEV連合、激動の時代へ変革急ぐ
(2)ホンダ三部社長、ソニーとのEV新会社「テスラと十分に戦える」
(3)孤高では生き抜けないEV大競争 ホンダが選んだ「現実主義」
(4)もがくホンダ技術陣、EV開発でぶつかった「思い込み」「経験」の壁
(5)電動二輪車でも反撃へ 王者ホンダ、牙城死守へ新たな「生態系」
(6)「F1より難しい」 ホンダが「空飛ぶクルマ」で目指す真の革新者
(7)ホンダ、盟友GMがつないだLGとの縁 北米でEV電池を合弁生産
(8)稼げなくなったホンダの四輪車 拡大戦略のツケを払った八郷改革
(9)宗一郎がホンダに残した道しるべ 車ではなく、未来をつくる

 2021年12月、ホンダの三部敏宏社長に1本の電話がかかってきた。相手はソニーグループの吉田憲一郎会長兼社長だった。年明けに米ラスベガスで開かれるテクノロジー見本市「CES」への出席を控えていた吉田氏。出発直前の電話には、単なる年の瀬のあいさつにとどまらない、互いの信頼関係の確認という意味があった。

 この時点で既に2人には胸に秘めた共通の青写真があった。「ホンダとソニーでEV市場に打って出る」――。

2022年3月、モビリティー分野での提携を発表したソニーグループの吉田憲一郎会長兼社長(左)とホンダの三部敏宏社長(写真:ロイター/アフロ)
2022年3月、モビリティー分野での提携を発表したソニーグループの吉田憲一郎会長兼社長(左)とホンダの三部敏宏社長(写真:ロイター/アフロ)

 それから2カ月余りたった今年3月初め、ホンダとソニーはEV事業での提携を発表し、世間をあっと言わせた。共同開発するEVを25年をめどに発売し、自動車向けサービスを事業化する。6月には年内に事業主体となる新会社を折半出資で設立すると表明。「ソニー・ホンダモビリティ」という社名も決めた。

一番インパクトがあるのはソニー

 「100年に1度の大変革」と呼ばれる大きなうねりの中にある自動車業界。各国で急速に加速する電動化は、動力源がエンジンからモーターへ切り替わるだけにとどまらない。競争では自動運転や通信機能などソフトウエアの比重が高まる。いわば“走る情報端末”となる車の価値そのものが問い直される。

 提携に向け、先に声をかけたのは、21年4月に創業者の本田宗一郎氏から数えて9代目のホンダ社長に就任した三部氏だった。単なる移動手段ではない、新しい価値を生み出すにはどうしたら良いのか。頭の中には「異業種との掛け算で、何か新しい価値を生み出せないだろうか」との思いがぼんやりと浮かんでいた。いくつかの候補があった中、一番インパクトがあると狙ったのがソニーだった。

 ソニーはモビリティー(移動)事業への関心を公にしており、20年1月には独自に開発したEVの試作車「VISION-S(ビジョンS)」も発表していた。もっとも、受託製造会社に頼んで“一品物”を造ることはできても、自動車を量産するノウハウを持ち合わせてはいない。本気でEV市場に切り込んでいくなら既存の自動車メーカーと組むのが近道といえた。

ソニーが2020年1月のテクノロジー見本市「CES」で発表したEV試作車の第1弾「VISION-S」(写真:AFP/アフロ)
ソニーが2020年1月のテクノロジー見本市「CES」で発表したEV試作車の第1弾「VISION-S」(写真:AFP/アフロ)

 三部氏の社長就任から間もない21年夏、両社は数人ずつの若手技術者を集め、モビリティーの将来を検討するワークショップを開催。これを機に提携に向けた話し合いが加速し、年末には三部、吉田両氏が腹を決めるに至った。

 ただ、第一候補としてソニーを見ていたホンダと違い、ソニーにとってホンダはあくまで選択肢の一つだった。他の自動車メーカーとの間でも議論が進んでいたが、「その話がなくなったことで、ホンダとの提携へ山が動いた」(関係者)。

 三部氏と話した直後のCESで、吉田氏はEVの試作車の第2弾「VISION-S 02」を発表。吉田氏はプレゼンテーションの場で「『ソニーEV』の事業化を検討する」と表明し、ソニーのEV進出に懐疑的な目を向けていた人々を驚かせた。自信を持ってそう宣言できたのは、水面下で進めていたホンダとの交渉で、提携への道筋が固まっていたからにほかならない。

 共同開発するEVで、両社は何を目指すのだろうか。

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