国際的に産業政策の方向性は分岐点に差し掛かり、日本も軌道修正している。経済産業省は「新機軸」として、国が従来よりも経済界と関わり、羅針盤の役割を果たそうと動き出した。現時点でいかなるミッションを考えているのか、経済産業政策局の飯田祐二局長に話を聞いた。

経産省は産業政策の「新機軸」を打ち出しています。そもそも何が従来の機軸で、どうして変えるべきなのでしょうか。

飯田祐二経済産業政策局長(以下、飯田氏):まず経済・産業政策の方向性について、過去30年ほどの流れを振り返りたいと思います。私が旧通商産業省に入省した1988年以降、(保護主義的な)産業政策に対しては米国を中心として国際的に批判が高まっていました。そこで、どちらかというと新自由主義的な政策へと、徐々に先進各国は軸足を移していったのです。

 規制緩和を含め、いかに民間の方々が活動しやすい環境を整備するかという発想が政策の中心となりました。例えば3つの過剰(雇用・設備・負債の過剰)、6重苦(円高や高い法人税率など)などと呼ばれた、企業経営の足かせを取り除く必要があったのです。企業が身軽に動ける状況を作り、創意工夫による新しい価値創造、その帰結としての経済活性化につなげることに重きが置かれました。

飯田祐二[いいだ・ゆうじ]
飯田祐二[いいだ・ゆうじ]
1988年(昭和63年)東京大学経済学部卒、通商産業省(現経済産業省)入省。米エモリー大学留学、大臣官房秘書課長、総括審議官、産業技術環境局長、資源エネルギー庁次長を歴任。2021年7月に経産省の官房長に就任、22年7月から経済産業政策局長を務め、首席エネルギー・環境・イノベーション政策統括調整官を兼務(写真:的野弘路)

 一方、現在では日本のみならず世界的に潮流が変化しています。国際経済秩序が複雑化しているなど、多くの要因があると思います。国によっては自由主義的な政策を続けたことで貧富の格差が広がり、国内情勢の安定や民主主義の維持のためにバランスを取る目的もあるのかもしれません。

 特に欧州では、温暖化や人権問題も含め、社会課題の解決のために国が政策的に一歩前へ出て措置を講じるという流れが強まりました。米国も現在のバイデン政権が同様の方向で動いており、産業政策の見直しが進んでいます。

 日本の経済産業省も2021年夏からベクトルを大きく転換し、経済産業政策の新機軸の検討を始めました。官と民が一緒に取り組み、社会課題の解決を成長につなげていく取り組みです。同年10月に岸田内閣が発足してからは、「新しい資本主義」の産業政策版という役割を担っていると自負しています。

政策の潮流としては「小さな政府」から「やや大きな政府」に向かっている印象です。経済学で言う「市場の失敗」に、従来よりもフォーカスしているのでしょうか。

飯田氏:単純に市場の失敗ということだけではありませんが、市場のみでは解決できない課題が相当出てきました。そして、課題に応えることはビジネスチャンスにもつながります。

 私の部下である梶直弘産業構造課長が米国を訪問して経済産業政策を調査したのですが、かつてとは異なるトレンドを肌身で感じたそうです。政府の役割について改めて議論され、(企業を放任するだけでなく)産業政策の重要性を認める声が経済学者からも出ており、変わってきています。

具体的に足元の経済については、どのように課題分析されていますか。

飯田氏:この30年間、政府が何もやってこなかったわけではなく、毎年政策を立案・実行してきました。企業経営者の方々も様々な努力をされてきたと思います。ただ、結果的には潜在成長率は低迷したままで、設備投資も人的資本投資も低迷しています。日本が世界に占める国内総生産(GDP)の比率も相当な縮小傾向にあります。

 私が入省した頃は、「通商産業立国としての通商産業省は大事な省庁だ」と言われ、この道を志したものです。現在では月によって貿易赤字となり、所得収支の黒字が国全体の経常黒字を支えている状況です。貿易によって日本のモノを海外で売って稼ぐという構造が変化しました。

 株式市場では、資産売却による価値のほうが足元の株価よりもプラスとなってしまう、PBR(株価純資産倍率)1倍割れの企業がTOPIX500銘柄の約4割を占めています。さらにIMD(スイス拠点のビジネススクール)の世界競争力ランキングも、私が入省したときは日本が1位だったのが今は34位になっています。

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