脱炭素の動きを加速させていくための資金供給が世界的な課題となっている。国際エネルギー機関(IEA)の報告書によれば、2050年までにネットゼロ(温暖化ガスの排出実質ゼロ)を実現するためには、30 年までに世界全体で年間約4兆ドル(約560兆円)もの投資が必要であるという。政府の直接支援だけでは不十分で、脱炭素関連のプロジェクトを資金面で下支えするファイナンスが必要不可欠である。エジプトで開催中の第27回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP27)においても、こうした金融面での下支え策が議論となった。

 諸外国に比べて鉄鋼や化学などの二酸化炭素(CO2)多排出産業を数多く抱える日本は、既に脱炭素の基準を満たしている再生可能エネルギー等の導入を加速する取り組みのみならず、CO2多排出産業が着実に脱炭素化に向かうよう後押しも強化しなければならない。省エネやエネルギー転換などで少しずつ低炭素化を実現する「移行(トランジション)」が重要だ。トランジション・ファイナンス(移行金融)は、日本の脱炭素の成否を左右するカギを握ると言っても過言ではない。促進・普及に向けて政府はどう動いているのか。経済産業省産業技術環境局にて政策立案に携わる、梶川文博・環境経済室長に聞いた。

「トランジション・ファイナンス(移行金融)」と呼ばれる、脱炭素を徐々に進めるための投融資は、なぜ必要なのでしょうか。

梶川文博・経済産業省環境経済室長(以下、梶川氏):気候変動問題の解決に向けたグリーンボンド(環境債)の発行額は、全世界で2699億ドルまで拡大しました。ですが、発行体の顔ぶれを見ると、エネルギーや建設分野などが主流となっており、CO2多排出の「産業」分野での発行は進んでいません。

 投資家は、再生可能エネルギーなど脱炭素を実現する、グリーンな取り組みを進める企業やプロジェクトに資金を投じます。ですが現実問題、化石燃料を使わざるを得ない状況に置かれている産業が依然としてたくさんあります。

梶川文博(かじかわ・ふみひろ)氏
梶川文博(かじかわ・ふみひろ)氏
2002年、経済産業省に入省。中小企業金融、IT政策、デザイン政策、経済成長戦略の策定、産業競争力強化のための人材育成・雇用政策、省内の人事企画・組織開発、ヘルスケア産業育成、マクロ経済の調査分析等を経て、現職(写真:陶山勉、以下同じ)

 例えばセメント産業。セメントは、原材料をキルンと呼ばれる回転式の窯に投入し、セ氏約1400℃で焼成します。それだけの熱源を再エネでまかなうのは今の技術ではかなり困難で、ある程度は化石燃料に依存せざるを得ない状況です。このように代替手段を持たない製造プロセスを抱える産業にとっては、一足飛びにグリーンに移行するのは不可能で、グリーンを理由に資金を集めるグリーン・ファイナンスを使いづらい。だからこそ、トランジション・ファイナンスのような、段階を踏んで脱炭素を目指す取り組みをきちんと評価し、資金供給する枠組みが別途必要なのです。

 昔とはだいぶ産業構造は変わったものの、日本は依然として製造業のウエートが高い国で、特に製鉄や化学、紙パルプやセメントなど、社会インフラにもなっている素材系の産業がしっかり残っている。そういった代替手段を持たない産業にも、きちんと脱炭素化の資金を行き渡らせましょうというのが、基本的な考え方です。

グリーン・ファイナンスと比べると、認知度はいまいちです。脱炭素政策をリードする欧州ではトランジション・ファイナンスの存在感は高まっているのでしょうか。

梶川:ドイツなど製造業のウエートが高く、製造プロセスでのCO2削減に取り組んでいる国々では移行金融へのニーズが非常に高いですし、問題意識も持っています。ただ欧州の脱炭素化はNGO(非政府組織)主導で進められた経緯もあってか、産業界の声があまり反映されていないのが現状です。

 欧州連合(EU)は2020年6月、環境に配慮した経済活動かどうかを示す基準「EUタクソノミー」を採択しましたが、その時も世界鉄鋼連盟やヨーロッパの鉄鋼業の業界団体は「代替手段のない産業にいきなり高いグリーン基準を適用するのは無理だ」と、猛烈に反対の声を上げました。それでもNGOや金融業界がルールメーキングに強い影響力を持ち、かつそれを支持する国民も一定層いる欧州では、そうした声が届いていないのが現状ではないでしょうか。

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