英国が9月、財政拡大にアクセルを踏もうとした途端、財政の先行き懸念から国債売りや通貨売りに見舞われた。GDP(国内総生産)比での債務残高が世界でも最大水準の日本にとっても無縁ではいられない。防衛費やグリーン投資の財源の手当ても必要になってくるなか、財政をつかさどる財務省は今、どのような問題意識を持っているのか、主計局の松本圭介調査課長に聞いた。

英国のトラス政権の大規模減税策が金融市場を混乱させ、首相が事実上の引責辞任に追い込まれました。どう受け止めていますか。

松本圭介・財務省主計局調査課長(以下、松本氏):英国の状況には我々も注目していました。もともとトラス氏は減税を掲げて当選したので、財政拡張的な施策を打ち出すのだろうと思っていましたが、その後にあそこまで市場が混乱するとは予測していませんでした。しかも、動きが非常に早かった。率直なところ、驚きました。

 なぜ市場が混乱したかについては色々な見方があるでしょうが、1つはインフレ対応のため金融政策が引き締めに入っているなかで、市場の想定以上の減税・財政拡大をやろうとしたことで、政策の整合性が取れていないという批判があったのだと思います。2つ目は、英国では、財務省から独立した財政責任庁が中長期の財政見通しを確認しながら財政運営を進める仕組みが確立していますが、この確認プロセスが欠落していたことです。そのことが、市場関係者から不評を買った面もあるのだと思います。

松本圭介[まつもと・けいすけ] 1998年東京大学経済学部卒、大蔵省入省。米ジョージタウン大学留学、内閣府、金融庁、財務省主計局、主税局などを経て2018年7月大臣官房企画官兼秘書課調整室長。その後東京国税局査察部長、内閣官房内閣参事官を経て22年7月より主計局調査課長(写真:北山宏一、以下同じ)
松本圭介[まつもと・けいすけ] 1998年東京大学経済学部卒、大蔵省入省。米ジョージタウン大学留学、内閣府、金融庁、財務省主計局、主税局などを経て2018年7月大臣官房企画官兼秘書課調整室長。その後東京国税局査察部長、内閣官房内閣参事官を経て22年7月より主計局調査課長(写真:北山宏一、以下同じ)

 結果的に減税案はほとんど撤回となり、エネルギー価格の高騰対策についても、来年度以降の分は財務省主導で見直すと発表されました。政策の撤回のスピードもものすごく速く、これも驚きでした。

 英国と日本は状況が違います。「日本でも同じことが起きかねない」と殊更に言うつもりもありません。ただし、何かの拍子に市場からの信認が損なわれると、市場は一本調子で急変動しうるということだと思います。そうした事態が、先進国である英国で起きたのは、ショッキングなことです。財政運営に対する市場の信認確保の大事さを、改めて実感しました。

改めて、今の日本の財政状況はどうなっていますか。

松本氏:ひと言で言えば、「国債・借金に依存している」状態で、しかも「その残高がすごい勢いで積み上がっている」という厳しい状況です。

 2022年度の一般会計の当初予算は107.6兆円。税収は65兆円しかなく、税外収入や日銀の納付金などを合わせても70.7兆円ですので、3分の2しかありません。残りの36.9兆円が借金です。国の会計の3分の1が借金による調達で、これだけ見てもなかなか厳しい。

出所=財務省「令和4年度予算のポイント」
出所=財務省「令和4年度予算のポイント」
https://www.mof.go.jp/policy/budget/budger_workflow/budget/fy2022/seifuan2022/01.pdf
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 歳出のうち、国債の元利払いを除いた社会保障関係費や地方交付税などの政策経費は、当初予算で83.7兆円ですが、これに絞っても、税収と税外収入では賄えていないわけです。これが、プライマリーバランス(PB)赤字ということです。

 さらに厳しいのは、今申し上げたのは当初予算の姿だということです。ご案内の通り、最近では年度途中で補正予算を組むことが多くなっており、2020年度と21年度は新型コロナウイルス対策もあって補正予算の規模が大きく膨らみました。今年度(22年度)も、10月末に取りまとめた経済対策を受けて、大規模な補正予算を編成することになりました。

 決算ベースでは20年度の歳出は147.6兆円だった一方、税収は60.8兆円しかありませんでした。21年度は歳出144.6兆円に対し、税収は過去最高といっても67兆円にすぎず、全く足りていない状況です。

 コロナ禍のような危機的状況において、財政が下支えをするのは必要なことです。日本に限らず、どの国でも同じようなことをやっていました。ただし日本は、リーマン・ショック、震災、コロナ禍といった危機に見舞われた時期はともかく、他の時期もほぼ一貫して財政状況が悪いことが特徴的です。国・地方を合わせたPBを見ると、日本は直近30年分の単純平均で、GDP比マイナス4.6%、主要国の中で最悪です。

 結果として、国・地方の債務残高もどんどん積み上がっています。GDP比で見ると260%程度という水準。IMF(国際通貨基金)のデータがそろっている2020年で見ると、比較可能な176カ国中、日本はダントツビリです。ちなみに、さきほど話題に上がった英国が102%で148位。173位はイタリアで155%、174位はアフリカの島国のカーボベルデで159%、175位はギリシャの212%ですから、もう日本はダントツで悪い。終戦直前期の債務残高のGNP(国民総生産)比が約200%でしたから、今の日本は、それよりも悪い財政状況です。

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